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日々の生活と雑記 : 誰も本気で白熱電球を無くそうとはしない

2010年を目途に一般白熱電球の製造を中止(東芝ライテック・2008/4/14)
一般的な白熱電球の製造、販売中止について(三菱電機オスラム・2008/6/16)
地球温暖化対策への取り組み(NECライティング・2008/6/20)

ここ2ヶ月ほどの間で立て続けに報じられた白熱電球に関するメーカー各社の取り組みについてのニュースを読む際に、最も重要で、かつ一般的に見落とされがちな点は、ここで言う「白熱電球」の種類が極めて限定的であることだ。各社とも、将来的な製造中止または大幅な減産に伴い電球型蛍光灯やLEDへの代替を進めるランプ(光源)は、E26タイプの口金(直径26mmのネジ式)を持つ白熱電球のみと発表している。

電球と聞いて大抵の中高年が思い浮かべるいわゆるふつうの電球の口金がE26だ。このタイプのランプが照明の主流を占めた時代はせいぜい1970年代前半までだろう。その後、一般家庭の照明のほとんどが丸形か直管形の蛍光灯を用いる器具に入れ替わっている。私たち自身、実家では長らく蛍光灯のもとで育った。
蛍光灯を好まない家庭ではE17タイプの口金(直径17mmのネジ式)を持つミニクリプトン球を用いることが多い。このランプは一般的な白熱電球の中では最も明るくコンパクトなもので、ダウンライトやペンダントライトなど多様な形状の照明器具に用いられる。E17の電球型蛍光灯もあるにはあるが、ミニクリプトン球よりもサイズがひとまわり大きいため、代替の可能なケースはほとんど無い。

そんなこんなで、実際のところE26の白熱電球が生き残っているのはバスルームや玄関など2、3カ所程度、という家庭がおそらく大半ではないかと思う。とうに過去の遺物になりつつあるランプを今さら排しますと発表されたところで、遅きに失した感は否めない。ともかく上記のプレスリリースは何ら画期的なものではなく、場当たり的なイメージ戦略程度の中身でしかないことを、私たち一般消費者は理解しておく必要がある。

温室効果ガス対策的には一般家庭よりも公共施設、オフィス、商業施設などの方が問題がはるかに大きい。機能性と演出性を重視するレストランや物販店などの比較的小規模な商業施設にはハロゲン球(白熱電球の一種で口金は主にE11またはEZ10)を用いたダウンライトやスポットライトなどの照明器具が多い。別段凝った照明を必要としない施設や大めの施設ではHID(水銀灯、セラミックメタルハライドランプ、CDMなどの高輝度放電ランプの総称で口金は様々)、そして蛍光灯(これも形状、口金は様々)がよく使われる。E26タイプの白熱電球が活躍する割合は一般家庭以上に少ない。

いきなりいろんな種類のランプを並べ立ててしまったので、ここで代表的なランプのおおよその光束(明るさ)、電力、寿命、口金の種類を簡単にまとめておく。実際には各メーカーの各製品ごとに細かなスペックの差があるし、個体差もかなりある。あくまで大雑把な参考値。

白熱電球
ふつうの電球60W形
 光束:810lm/電力:57W/寿命:1000時間/口金:E26
ミニクリプトン球60W形
 光束:800lm/電力:57W/寿命:2000時間/口金:E17
ダイクロイックハロゲン球65W形
 光束:1100lm/電力:65W/寿命:3000時間/口金:E11
12Vダイクロイックハロゲン球50W形
 光束:980lm/電力:50W/寿命:4000時間/口金:EZ10もしくはGU5.3

蛍光灯
電球型蛍光灯(EFD)15W形
 光束:810lm/電力:13W/寿命:8000時間/口金:E26もしくはE17
丸形蛍光灯(FCL)20W形
 光束:1300lm/電力:18W/寿命:6000時間/口金:G10q
直管形蛍光灯(FL)20W形
 光束:1470lm/電力:18W/寿命:8500時間/口金:G13

HID
CDM-R 35W形
 光束:2000lm/電力:35W/寿命:9000時間/口金:E26
CDM-T 35W形
 光束:3300lm/電力:35W/寿命:12000時間/口金:G12
セラミックメラタルハライドランプ70W形
 光束:6700lm/電力:70W/寿命:9000時間/口金:E26

LED(参考)
・LEDダウンライト(東芝ライテック E-CORE100
 光束:920lm/電力:14.2W/寿命:40000時間

参考として挙げたLEDダウンライトは、現在のところLEDを光源とする一般的な形状の照明の中で最も明るいもの。それでも60Wのふつうの電球よりわずかに明るいくらいの性能でしかない。
LEDで明るさを確保する場合に一番のネックとなるのは熱だ。蛍光灯やLEDは熱くならない、と言う常識が誤りであることは、実際に点灯中の器具を触ってみれば分かる。LEDの素子自体は熱を持たないが、明るくしようとするとその基盤回路がどうしても熱くなる。LEDの電極部分は案外デリケートで、過度な熱が加わると短期間でダメになる。LEDの寿命は半永久的、との常識もまた事実上誤りと言って良い。一定以上の明るさを得ようとした場合、今のところ蛍光灯の方がLEDよりも電力効率が良く、HIDはさらにそれを大きく上回る。ただしHIDはあまりにも高性能なため、一般家庭には明る過ぎて現状では使用する場面が無い。

商業施設のライティングにおいて特に重要な白熱電球であるハロゲン球に焦点を絞ってさらに話しを進める。ハロゲン球を蛍光灯やLEDで代替するにあたって技術的にクリアしなくてはならない問題は単純な口金の違いだけではない。

最も重要なのは光の質の違い。ハロゲン球に匹敵するシャープで自然な暖かみのある光を蛍光灯やLEDの仕組みで再現することに成功したランプは未だ発売されていない。明るさそのものがハロゲンなみであったとしても、現状では光の拡散を抑えることが難しく、ぼやけた印象となってしまう。この差はあまりに歴然としており、インテリアデザイナーや建築家が設計的な工夫を凝らしたところでどうにかなるものではない。
もうひとつは調光の可否。ハロゲン球を含むほとんどの白熱電球は、シンプルな構造の調光スイッチで100%から0%までのシームレスな明るさの調整を行うことができる。空間演出に応じた繊細な調光への対応は、自然光を取り入れた飲食店などでは特に重要だ。蛍光灯にも調光の可能な種類はいくつかある。ただし、現状では調光の範囲が狭い(50-30%程度までしか絞れない)ものが大半で、しかも最も一般的な照明形式であるダウンライトやスポットライトにおいて調光に対応した器具が無い。LEDは基本的に自由な調光が可能だが、ダウンライト形式で調光に対応した器具は現在のところなぜか東芝ライテックの1種類のみ。スポットライトには未だ調光に対応した器具が無い。
また、細かな問題としては長期使用での明るさの減衰の違い(ハロゲン球はあまり明るさに変化の無いままパチンと息絶えるが、蛍光灯やLEDは気付かぬうちにじわじわと暗くなってゆく)が挙げられる。さらに蛍光灯についてはサイズの違い(明るさ性能に比べてサイズが大きい)、安定発光までの時間の違い(特に電球型蛍光灯はスイッチONから明るくなるまでに時間がかかる *参考:ハイブリッド点灯方式)と言った問題も挙げられる。

現状ではハロゲン球の代替として有望なランプはHIDを置いて他に無さそうに思われる。特にCDMの光の質感は自然光に近く、クリアで美しい。今後CDMの普及をさらに進めるにあたっての最も重要な課題は、コンパクト化(点灯にトランスを要するため器具サイズが大きく、またランプ自体のサイズも大きい)と調光技術の開発だ。この2つのハードルがクリアされれば、ハロゲン球を含むほとんどの白熱電球は各種施設から速やかに姿を消すだろう。

私たちにはフィラメントへのノスタルジックな感情があまり無く、余程特別な使用ケースを除いて、個人的には白熱電球などさっさと無くなってしまった方が良いとさえ思っている。また一方で、白熱電球に既存の代替方式を上回る省電力長寿命性能を付加する技術的ブレイクスルーも有り得るのではないか、という疑いも捨て難い。電球型蛍光灯やLED照明器具が市販されはじめてから既にずいぶん経つが、待てど暮らせどハロゲン球はおろかミニクリプトン球にさえ代替がきかない。インテリア・建築デザイナーとしては正直いい加減うんざり、と言った状況だ。メーカー各社にはそろそろ中途半端なポーズを示すだけでなく、温室効果ガスの削減に本腰を入れていただきたい。

誰も本気で白熱電球を無くそうとはしない・補01(March 18, 2010)

2008年06月29日 07:00 | trackbacks (0) | comments (6)
comments

世界中で、温室効果ガスを出している国はもちろんアメリカだけど、
小さな極東の国なのに日本は第4位。かなりヒドイと思う。
政治的な圧力をかけられても、文句は言えないでしょう。
でも意外と知られてないよね……事実は伝えているというものの、
政界や産業界によるごまかしごまかしの感は否めません。
CO2削減のためには針葉樹(スギ)植林は正しい、運用すべきだ、
という京都議定書の主張も言い訳にしか聞こえない。だったら林業を何とかしろよ!

「ヒトの生活」というシステムに関わる問題なので、
そこをごまかすと全く解決できないはずなのに。
もー、東○@某メーカーの仕事のせいで、
なかば地球の未来に絶望感……ほんと全然本気じゃない……(涙)。

posted by: わらび : 2008年06月29日 14:31

>わらびさん
政治や産業の根本的な仕組みを放置して、いかにも下々の心掛けで乗り切れそうな錯覚を流布するのはやめてもらいたいですよね。大きな組織とつき合ってると、ますますがっかりしてしまいそうだけど、まあ腐らず本当にやるべきことを見極めながらやるとしましょう。人間のやらかしたミスには人間の知恵できっちり落とし前をつけたいもんです。

posted by: 勝野+ヤギ : 2008年06月30日 01:00

政治や産業抜きにして今の世界は成り立たなくなっているのが現状だと思うし
本当はこの枠組みを超えて取り組まなければならないのに
小手先でちょいちょいやっても無駄のような・・・(海外はいまだに電球ですけどね)
まだ20代前半の頃グリーンランドに行きカーナーク?~フランツ・ヨセフ??方面へ
行ったと思うのですが(確かこんな名前だったような)一面氷の世界で海やら陸やら
まったくわからない世界ででした
こないだTVで同じようなコースをたどってる番組があり、記憶とまったく違った景色に愕然としました。早すぎる・・・多分大方の予測より早いんじゃないかな?と思う
海面は上昇しないなんて言ってるけど真水と塩水は比率が違うからそんなうまくいくとは考えにくいし、むしろ塩分濃度がかわったら海流や海水温の方が危ないともいえるし、特に北半球は温暖化とは相反する状況もありえる
大袈裟に言うとデイ・アフター・トゥモローのような・・・
もうすでに温暖化対策だけじゃなく大規模な気候変動にも備えなければいけない時期にきているのでは・・・先進国にいる人間としては深く考えさせられます

posted by: KIYO : 2008年07月03日 12:04

>KIYOさん
なんと、グリーンランドへ行かれたことが?!そうしたリアルなお話を聞くと俄然心配になって来ます。どう考えても小手先で解決できる問題じゃありませんよね。。。

posted by: 勝野+ヤギ : 2008年07月03日 16:13

照明のデザインをしている者です。世間ではLEDがだんだん普及してきて白熱灯を減らす方向になっていますね。なんでも、エコエコの大合唱ですが私が日頃仕事で感じでいることを書かせてください。
確かに白熱灯(ハロゲンランプも含む)は発光効率の悪い器具です。ただ今でも我々が仕事上使い続ける最大の理由は暖かみのある光がでることです。これは蛍光灯、LEDがどんなに進化しても越えることは出来そうにありません。確かに電球色のランプなどでていますが、光の質という意味では全く話になりません。根本の発光原理が違うからで、調光で光量を絞ると顕著にあらわれます。
好みの問題なのでしょうけれど、日本人は夜でも部屋の隅々まで明るい照明を好むようですが、今日一日が終わりに近づき、就寝に向かう時間に、これほどまでの明るさが果たして必要なのだろうかと思います。いくら発光効率の高い蛍光灯、LEDでも、明る過ぎては省エネという意味では?ですよね。
エアコンの設定温度はこまめに調整するのに、照明は全部つけている方、多いのではないでしょうか?ご飯食べ終わって寝るまでのひととき、白熱灯のフロアランプとテーブルランプだけつけてゆっくりとした時間を楽しむのも、なかなかいいものだと思いますよ。市販の延長コード型調光機で少し絞ってあければ、白熱灯でも倍近い寿命になりますし、全体の電力は蛍光灯より小さくすることも難しくありません。
まあ、そういう考えもあるんだなぁ、と思ってくだされば幸いですし、うちもやってみよう!と言う方が多くなってくださればありがたいことだと思います。

posted by: Lily : 2008年08月14日 15:26

>Lilyさん
ライティングデザインに関わるプロの方からのコメントをいただけてとても嬉しいです。照明演出の見地からのご意見、また調光器による節電のご提案など、大変分かりやすく勉強になりました。ありがとうございます!

ちなみにウチは延長コード型調光機を3台使ってます。
http://www.lutron.jp/products_01.html
上のページの一番下にある『クレデンザ』という機種。

過剰に明るい照明(しかも蛍光灯の白い光)が好まれる一般的傾向について、私たちも日頃より苦々しく思っています。仕事上「てめーらなんざコンビニにでも住みやがれ!」と言いたくなる場面も結構あったりします。
光の質や陰影を愛でる高度で繊細な感性は今や日常からすっかり失われつつあります。「電球をLEDに変えればエコ」と言ったいかにもショボい企業キャンペーンが、光環境の悪化のスピードを早めるきっかけにならないよう願わずにはいられません。
本文の繰り返しになりますが、ランプメーカーには環境負荷の低減と、私たちの文化としての「感性」の両方を満足させる技術の開発に早急に取り組んでいただきたいです。

posted by: 勝野+ヤギ : 2008年08月15日 10:54

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