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都市とデザインと : 滝内高志氏の作品ツアー2

前のエントリーの続き。

歩いて原宿方面へ。ユナイテッドアローズから明治通りの脇道に入ってしばらく進んだところのビルB1Fに『OTTAGONO』がある。ここは1989年オープンのバー。詳しい住所は分からないんだけど、下の写真の階段が目印。
ここに訪れるのは実は2度目。素晴らしいバーだったんだけど、当時あまりの上質な雰囲気に恐縮してしまって、以来なかなか足を向けることが出来なかったんだなこれが。あれから8年くらいが経って私たちも随分と厚かましい中年になった。そんなわけで、改めて。

ドアを開けると正面に壁。左手にまわると、そこには真っ白な巨体を横たえるバーカウンター。人数を告げると、カウンターの中央に立ったボウタイのバーテンダー氏が静かな笑みを浮かべて、奥へ、と手をやる。円盤形をした小振りな革張りのスツールに掛けると思わずため息が出た。本当に、痺れるくらい研ぎすまされた空間だ。
ジントニックとアルコール弱めで甘みのあるカクテルを、とオーダー(勝野はアルコールがからきしダメ)。手前側が大きく丸みを帯びた白いバーカウンターのひんやりとした手触りを確かめた。これはなんと琺瑯で出来ている。世界中探したってこんなカウンターがあるのはこの店だけだろう。カウンターバックの壁に取り付けられたグラス棚の扉も琺瑯。その表面に散らばった楕円パターンに嵌め込まれているのは錫。頭上に目を向けると、天井面に穿たれた無数の小さな穴。そのすべてに硝子玉が嵌め込まれていて、やわらかい光が漏れ出ている。

しかしこれが完成後すでに15年近くを経た店だとは、全く驚異的だ。相応にヤレた部分など一切目に入らない。まるで時間を止める魔法にでも掛かったんじゃないか、と思うくらい。いや、たしか8年前に一度来た時はバーテンダーが二人だったな。たった一人の店になった分、バー空間特有の求心力は強くなった。もしかすると、この店が最上に研ぎすまされた姿を見せているのは今この瞬間なんじゃないか。
そんなことを思わせるくらい、このバーテンダー氏とこのインテリアが作り上げる空間は素晴らしい。酒、カクテルのクオリティについては推して知るべし。今現在、東京で、私たちにとって最高のバーがこの店だ。

『OTTAGONO』の住所や電話番号はここには書かない。取材を受けていただければ、7月発売のCONFORT(8月号)に詳しく載るはずなのでそっちをご覧あれ。

梶原さんと分かれて、藁科さんと3人でタクシー移動。渋谷東急本店の辺りで下車。雑居ビルの3Fにあるバー『黒い月』へ。ここには看板らしい看板が一切無い。銅板にステンレスワイヤーを縫い込むようにしてパターンをつけたドアを開けると、小さなバーカウンターと女性のバーテンダーがひとり、そしておとなしくて綺麗なミニチュアダックス一匹に迎えられる。

店内は本当に小さくて、『きっしょう』によく似た2人掛けのバースツールが3台。あとは小さなテーブル席があるだけ。カウンタートップは銅板貼。カウンターバックの扉も銅板で、ドアと同じワイヤーのパターンが施されている。それ以外の部分は床も壁もぜんぶ大谷石貼。壁面のフックまで円筒形に削り出した大谷石だ。なにしろ小さな店なので、インテリアデザイン的にはそのくらい。オープンしたのは1986年と今回巡った中で一番古い。滝内高志氏の手がけた飲食店としては最初期の作品だ。銅板の赤みがかったやさしい色味と、年月のしみ込んだ大谷石のグレーとがコントラストを醸し出している。

この店では本当はワインをいただくべきだったんだけど(バーテンダー氏の知識はものすごいらしい)、私たちは残念ながらワインには全くもって疎い。勝野はまたもや弱めのさっぱり系カクテル。かなり弱っていたヤギは気付けとして店と同じ歳のクラシックラム(名前をチェックし忘れた)をストレートでいただく。これがとどめ(もちろん美味しかったんです)。終電はとうに無い時間だったのでタクシーで帰宅。

●黒い月 / 東京都渋谷区宇田川町33-10-3F / t.03-3476-5497
 8:00-4:00 / 日休

当然帰ってすぐ寝る。そして翌日はデザイナーご本人への取材なのだ。

2004年05月02日 02:22 | trackbacks (0) | comments (0)
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