
2/7。原宿で打合せと現場視察の後、六本木へ移動。ル・ベインで深沢直人氏デザインのチェアを見てから『カファ・ブンナ』でひと休みさせていただくことにした。六本木通りを駅方面へ少し進み、明治屋の手前の角で左折。ほどなく右側に現れる古いアパートビルを見上げると、プランターをいくつか下げた格子窓と控えめな木彫りの看板が2Fから出迎える。ビル中央の階段を上がり、テラス風の通路に面したドアを開けて店内へ。

エントランスから正面の白漆喰壁沿いに左手へ進むと、奥に延びた10席弱のカウンターにぶつかる。老マスターに会釈して、カウンター向かいのテーブル席に落ち着いた。テーブルは小さなものが3つあるだけなので、店の席数はおそらく全部で20あるかないか、と言ったところ。カウンター席はそこそこ明るいが、この一角の照明はベンチシートの隅に置かれたスタンドライトがふたつに壁掛けされた電球が一個と極めて暗い。オープンしたのは1960年代末とのことで、内装も、家具もそれなりに古い。BGMのシャンソンに耳を傾け、灯油ストーブで暖をとりつつ、次第に六本木の喧噪から遠く離れた気分になる。ラテンブレンドとデミタス、ババロアを注文。
店内の演出はフランス風ながら、コーヒーの味はさほど重くない。バランスに優れ、飲みやすく、ほっとするような味わいだ。特に私たちが好きなのは、まろやかでかつキレのあるデミタス(注文時、マスターに「砂糖を入れずにお飲みになっていただきますがよろしいですか?」と確認される)。ブランデーの効いたソースでいただくババロアもまたコーヒーを引き立てる逸品。マスター(能勢氏)は、林玄氏(コクテール堂創業者)、松樹新平氏(建築家)と共にコクテール堂系の喫茶店スタイルの確立に寄与した人物なのだそうだ。
2004年初頭まで、この店のすぐ階下にはインテリアデザイン史上伝説的な存在のバー『バルコン』(内田繁氏デザイン/1973)があったが、今はその面影はどこにも無い。立て続けの大開発が余波を残す六本木界隈にあって、『カファ・ブンナ』の存在は奇跡に等しく思われる。
「げんさん」のオールドコーヒー(SALUT/オハヨー乳業)
12/27。『三八』田宮店から車を東へ走らせ、駅前を迂回して南へ。『珈琲美学』yamashiroで寛がせていただいた。オーナー・小原博氏による『でっち亭』(81、2年頃開業。2007年に『珈琲美学』chiyogamaruにリニューアル)の姉妹店として1990年に開業した自家焙煎珈琲店。ここのところ足を運ぶ機会に恵まれず、2、3年ぶりの訪問となった。

市中心部を離れ、アスティとくしまや徳島文理大学に近接したこのエリアにはどことなく落ち着いた雰囲気があり、小洒落た飲食店がちらほらと点在している。そうした中、駐車場の北側と東側とにL字型に配置された簡素な木造平屋の『珈琲美学』の外観は、少々味気なく見えなくもない。が、駐車場に面した建物角にある入口から店内へ入るとその印象は一変する。

小屋組の露出した天井は思いのほか高く、重厚だ。内装の大部分は焦茶に染色された木造作が占め、窓から差し込む自然光がそこに深い陰影を与える。入口の正面には豆売りなどの物販カウンターとレジがあり、向かって右側にカウンター席。東側の棟は全てテーブル席。その配置や黒いウレタン塗装に革張りのチェアのボリュームはゆったりとしており、頭上の空間も含め心地の良い余裕を感じさせる。席数の多さに対してスタッフの人数はすいぶんと少なそうに見えるが、目配りは行き届いており応対にもそつがない。営業時間の長さも含め、実に使い勝手が良く有り難い店だ。

上の写真は美学ブレンド。かなりソフトな味。おそらくペーパードリップかと思われる。ビスコッティと一緒に付いて来るのは阿波和三盆糖(岡田製糖所のものだろうか)。そのまま食べても、珈琲に入れても良し。

上の写真左上はドライブラック。ネルで点滴抽出するとのこと。こちらは力強くまろやかな苦味の珈琲。美味い。この後いただいたインドネシア・トラジャも香り高い逸品だった。また、この店はデザートも素晴らしく、外せない。写真右上がレアチーズケーキ。左下があずきのケーキ。右下が鳴門金時ケーキ。どれも上品な甘さで珈琲との相性は抜群だ。
そう言えばこちらでまだエスプレッソのメニューをいただいたことが無い。次回はぜひ。
珈琲美学 yamashiro/徳島県徳島市山城西1-7/088-655-8877
8:30-23:00/無休(1/1のみ休)
12/14。『CAFE STYLE KOJIRO』(カフェ・スタイル・コジロウ)を初めて訪れた。2007年5月に開業した自家焙煎珈琲店。マスターはあの銀座『カフェ・ド・ランブル』出身の人物と聞いていた。

春日通りを東に進み墨田区側へ。そのまましばらく行ったところでセブンイレブンの角を左に曲がる。陽の暮れた本所一帯はひっそりとして暗い。町工場や民家の並ぶ路地裏を少し北上すると、右手の道脇にシルバーのガルバリウム鋼板に覆われたフラットな壁面が唐突に現れる。これが『KOJIRO』の店構え。近づくと、その壁の真ん中に半間ほどの幅のスリット状の空間があり、行灯看板の青白い光が漏れ出している。微妙にSFチックなステップを上り、左側のドアを開けて店内へ。
入口正面は突き当たりで、右手へ進むと通路を挟んで左側に小さなテーブルが3つ、右側が5席のカウンターとなっている。8畳間ほどの空間は、壁面を構造用合板、床をウッドフローリング調の塩ビシートで仕上げた極めて簡素なつくり。カウンターがほぼ埋まっていたので、ひとまず奥側のテーブルに落ち着いた。テーブルの幅は40cmほど。壁際は一列のベンチで、通路側に透明な座面のスツールが3つちょこんと置かれている。一応6席の体裁ではあるものの、実質的にテーブルは4席プラスアルファと言ったところだろう。メニューを見るとコーヒーはどれも三段階の濃さが選べるようになっている。濃いめのブレンドとプリンを注文。

この日のカップ&ソーサーはアレッシィ製。コーヒーのまろやかさと、力強く咥内にひろがる香ばしい風味は、まさしく『ランブル』そのものだ。プリンの脇にはカラメルの替わりに少量の水出しコーヒーが添えられる(こちらのカップはイッタラ製)。少々意外だが、濃厚なプリンとの取り合わせは、違和感が無いどころかもう実に絶妙なものだった。
続いてブラン・エ・ノワールとカフェオレを注文。カウンターが空いたのでマスター氏の申し出に従い有り難く移動させていただく。カウンターバックのカップボードに並ぶシンプルなデザインの器類は、マスター氏の好みを反映したものだろう。その中に1ダースほど混じった取手の無い染付のデミタスカップは『ランブル』のオリジナルだ。
造り付けの什器類がほとんど無く、いささか雑然として見えるカウンターバックの中央には、ステンレス張りの小型冷蔵庫が腰高に持ち上げられて鎮座している。扉を開けると冷蔵庫の中には氷の塊が収められており、その上で転がすようにしてシェーカーを冷やし、そこからコーヒーをシャンパングラスに移す。エバミルクを浮かせるとブラン・エ・ノワールの完成。
冷蔵庫の右脇には唐突に家庭用の洗濯機が置かれている。そう言えば『ランブル』も丸きりこうだった。素人には伺い知れないが、一見奇妙な機材配置の全てに合理的な意味があるに違いない。
ナツメグを添えて供される濃厚な味わいのカフェオレもまた紛うこと無き『ランブル』ゆずり。素晴らしい。
帰り際、マスター氏に「大変美味しかったです」と伝えると、それまでにこりともしなかった顔が一気にほころんで「恐縮です」と仰った。店の立地条件だけを見れば、コーヒーのクオリティどころか商売そのものが成り立つのかどうかさえ危ぶまれるが、この腕前にこの人柄。きっと大丈夫だ。今後は『なにわや』と合わせて通わせていただきたいと思う。
しばらく歩いたところで、店のBGMがラジカセから流れるJ-WAVEだったことにふと気付いた。これまた『ランブル』と同じではないか。厩橋から浅草の灯を眺めながら、なんだか微笑ましい気分になった。
CAFE STYLE KOJIRO(カフェ・スタイル・コジロウ)
東京都墨田区東駒形2-7-3/03-5608-3528
11:00-21:00(日祝-20:00)/火休
11/30。倉俣史朗展を見てから骨董通りの裏を青山通り方面へ。『蔦珈琲店』で一休み。山田守自邸(1959)のピロティ部分に設けられた自家焙煎珈琲店。開業年は不明。

鬱蒼と蔦の絡まった煉瓦造の塀が平行にふたつ。その間をアプローチとして、『蔦珈琲店』のエントランスは少し奥まったところにある。そこは裏通りのさらに裏側だ。見上げると開放的な立面と薄いスラブ、角アールの意匠が印象的な3階建てだが、その偉容は狭い通りを普通に歩いている限りではほとんど目に入らない。
木製のドアを開けて店内へ入ると、左手にカウンター、右手にはラウンジチェアがそれぞれ4つ据えられたガラスのローテーブルがふたつ。ここは温和でおしゃべりなマスターとの会話を楽しみに来る常連客の多い店なので、私たちはいつも奥寄りのテーブルに落ち着くことにしている。その右脇は大きなガラス面。向こうに小振りな庭園がひろがる。こんもりした盛り土のまわりをいい具合にワイルドな草木が囲み、間近に大きな紅葉、向こうにはこれまた立派な桜。そこに繰り広げられる季節の縮図は、都心ではなかなか目にする機会の無いものだ。たまにしか訪れないにもかかわらず、この眺めを共有させていただけるのは大変有り難い。
コーヒーとデミタスを注文。目の覚めるような鮮やかさは無いが、香ばしくまろやか。美味い。この日は頼まなかったが、珈琲とチーズのセットはこの店ならではのメニュー。デミタスとチーズの組み合わせに感動したのは東京に住みはじめたばかりの10年ほど前のことだ。おかげでカフェブームにはほとんど目もくれず、好んで自家焙煎珈琲店に足を運ぶようになった。
苺のショートケーキも付けていただいた。これまたシンプルかつ味わい深い逸品。夕刻には品切れになることも多いが、この店はデザート類も素晴らしい。
帰り際、お釣りの小銭をいただく時に「これで土地でも買って」とマスター。近頃とんと聞かないようなジョークに思わず吹き出した。しかしこういう時にすかさず、さらに下らないジョークを返せるようでないと真に都会人とは言えないな、とつくづく思う。
蔦珈琲店/東京都港区南青山5-11-20/03-3498-6888
10:00-22:00(土祝12:00-20:00)/日休
珈琲店巡りは私たちにとって重要な趣味のひとつ。でも珈琲の味そのものを追求することについてはあくまで素人にとどまっておこうと思う。私たちの前に置かれた黒い液体には、コーヒーの木を育て豆を採取するところから始まり、様々な行程と長い長い道のりが濃縮されている。珈琲のプロ、あるいは通ともなると、その行程の全てとは行かないまでも、要所に目を光らせることはおそらく当然だろう。私たちには到底そんな根性は無い。その道を邁進する修験の人々に最大限の尊敬を払い、珠玉の珈琲を分けていただくために謹んでその扉を叩くのだ。

プロと素人を分ける境目を、私たちは「焙煎」という行程に置く。やったことはないが、焙煎はとにかく難しく、奥深そうなものに思える。珈琲の味の大方は焙煎で決まる、と言うのは珈琲好きにとって基本中の基本の常識だが、こうした常識が国内に定着するまでには多くの人々の努力と研鑽を要した。そうした功労者の中でも特に襟立博保(1907-75/『リヒト』、『なんち』など)、関口一郎(1914-/『ランブル』)、田口護(1938-/『バッハ』)、標交紀(1940-/『もか』)の4氏の存在は伝説的だ。その足跡は『コーヒーに憑かれた男たち』(2005/写真右下)に詳しい。
4氏のアプローチはそれぞれに個性的で、またそれぞれに凄まじい。襟立氏は大阪に店を開いては潰しながら、岩のような頑固さで理想の珈琲を提供し続ける“怒る喫茶店”の主だった。徹底した合理主義者でありオールドビーン研究者である関口氏は、自宅に5トンの生豆を貯蔵可能なエージングルームを持つと言う。田口氏は“よいコーヒー”の条件をシンプルに明文化し、アメリカンやなんとかマウンテンを盲目的に信奉する業界の通念を否定し尽くした。
襟立氏を師と仰ぐ標氏の珈琲に向かう姿は求道者そのものだ。『コーヒーに憑かれた男たち』に記された様々な逸話は時に可笑しく、時に涙ぐましく心に迫る。“ダイヤモンドのコーヒー”を探してのヨーロッパ歴訪については、氏の著書『咖啡の旅』(1983/写真左)により詳しい。旅の終盤、遂に一点の非の打ち所無く焙煎された珈琲豆に遭遇した氏が、結果「完全過ぎる味は、完全ではない」と気付くエピソードには実に考えさせられものがある。また、同じく標氏の著書である『苦味礼賛』(1984/写真左上)は『もか』開業からの変遷と襟立氏との交流、そして珈琲に対する氏の熱い思いが簡潔な文体で書き綴られた内容。読めばあっと言う間の小さな書物ながら、上記の両書を補うものとして興味深い。
『コーヒーに憑かれた男たち』の締めくくりは、一見悲観的なトーンに覆われている。4氏の数十年に渡る活動を経た今も「世の中の人間の九十九%は、うまいコーヒーがどんなものかを知らない」という現実は動かし難い。「いい豆には必ず匂い立つような気品が感じられる」と関口氏は語り、「コーヒーも最後は“品格”のあるなしで決まってしまう」と標氏は話す。そんな哲学的な珈琲は、所詮ごく限られた好事家のためのものに過ぎないのかもしれない。しかし、1800年頃に発明されヨーロッパで一時隆盛を極めたドリップコーヒーを、いま現在、最も美味しくいただけるのが、他でもない日本の自家焙煎珈琲店であることもまた事実なのだ。
私たちにはこうした事柄の持つ本質が、自身の携わるデザインの現状に大部分重なり合って見える。一杯の珈琲が語りかける言葉に静かに耳を傾けながら、私たちはデザインの未来を思う。
良質な珈琲と良質なデザイン。
先々まで生きながらえるのは果たしてどちらだろうか。
コーヒーに憑かれた男たち/嶋中労著/中央公論新社/2005
咖啡の旅/しめぎ交紀著/みづほ書房/1983
苦味礼賛/標交紀著/いなほ書房/1984
6/25。『アラビヤ珈琲店』で朝食。場所は心斎橋となんばの間、戎橋筋から法善寺横丁へと抜ける路地。この辺りはミナミでも特別ディープなエリアだ。

『アラビヤ珈琲店』は1951年創業の自家焙煎珈琲店。ドアを開けると左手にレジと10席程の客席カウンターがあり、右手に4人掛けのテーブル席が並ぶ。突き当たりのショーケース(古い木彫りのディスプレイ物や珈琲器具などが雑然と詰め込まれている)の向こうにもいくつかのテーブルの並ぶ部屋があり、さらに最奥には2F客席への階段。と、こぢんまりとした外観に似合わず席数は結構多い。板張りの壁に囲まれた店内の照明は控えめ。古びたカウンターチェア(先代マスターの作とのこと)の武骨な意匠が一際印象に残る。

メニューには関西の喫茶店に期待されるものが一通り揃う。しかもその全てに期待以上のインパクトがあり、文句無しに喫茶店好き・カフェ好きの琴線を震わせる。この日頼んだのはブレンドとミックスジュース、ホットケーキにアラビヤサンド。

ブレンドの味は自家焙煎店としては平均的なものだが、大阪の地でここまでの珈琲を提供する店を私たちは他にほとんど知らない。ミックスジュースはビジュアルも含めまさにパーフェクト。しっとりとした食感と香ばしい風味のホットケーキは専門店を凌駕する素晴らしさ。

そして何を置いても外せないのがアラビヤサンド。両面焼きのトーストに挟まれたハム入りの卵焼き。その見事なハーモニーに思わず顔がほころぶ。美味い。
こうしたメニューがマスターと老齢の女性(先代の奥様と思われる)のお二人だけのカウンターキッチンから提供されることは驚きだ。また、マスターの応対はいつ来てもシンプルながら気持ち良いもので、老舗に有りがちな重圧を客に微塵も感じさせないことにかえって尊敬を覚える。この日はあまり時間がなかったのでダッチコーヒーやコーヒーゼリーをいただくことができなかったのが残念。大阪に連泊する機会があればなあ。
アラビヤ珈琲店/大阪市中央区難波1-6-7/06-6211-8048
10:00-22:00/無休
6/11。打ち合わせからの帰りに浅草で『なにわや』を初めて訪れた。オレンジ通りとすしや通りのあいだ、食通街と呼ばれる路地の中ほどにあるちいさな自家焙煎珈琲店。2006年にオープン。

店舗は小料理屋の居抜きで、外装にも内装にもそこかしこにそれらしい痕跡が残っている。格子の引戸を入ると右手にある10席足らずのカウンターは、内側の作業台に比べて少々低過ぎるようで、手元が見え過ぎるくらいによく見える。豆の瓶が並ぶバック棚といい、いかにも急ごしらえの普請だ。フロアは黒石の洗い出し。左手の窓際に座卓2つの小上がりが残されているのは珈琲店には珍しく、面白い。暗色の木造作のあいだにあって、妙に可愛らしい白いビニールレザー張りのカウンターチェアに落ち着き、なにわやブレンドと深煎りブレンド、自家製コーヒーゼリーを注文。
店内のゆるい造りに比べ、短髪に眼鏡とピアス、関西弁の店主氏は対照的に鋭い雰囲気を漂わせている。その動作には一切の無駄がない。湯温を温度計でチェックし、仕上がりをスプーンで確認しながら、ひとつひとつの行程を実に丁寧に重ねる。ブレンドはその場で数種の豆を計り合わせてミルにかけている様子。丸見えのカウンター内はまるで実験室のようだ。
カップにたっぷりとでき上がった珈琲を一口いただくと、その風味は見事なまでに澄み切っていた。実のところあまりにクリア過ぎて、最初は「おや?」と首を傾げたが、冷めるに従って豊かな味わいが沸き上がるようにして現れる。個人的には弱く酸味を残したなにわやブレンドの方が、よりこの店の嗜好を表すように思う。それにしてもこの雑味の無さはどうだ。「理科系の珈琲」と言うフレーズがふと頭に浮かぶ。
時間とともに楽しみの増す珈琲に対し、コーヒーゼリーのインパクトは最初の一口からして強烈。この分だとアイスコーヒーにも大いに期待が持てる。ミックスジュースも近いうちにぜひいただいてみたい。トーストにはペリカンのパンを使っているとのこと。主なメニューはワンコイン(500円)、と言う値段設定の仕方も実に浅草らしく都会的で好ましい。しかし果たしてこれで儲かるのだろうか?他人事ながら心配だ。
なにわや/東京都台東区浅草1-7-5/03-5828-8988
10:00-23:00/火休
10/4。『成城コルティ』から千歳船橋へ。『堀口珈琲』世田谷店に初めて足を運んだ。オープンは1990年と比較的新しいが、オーナーの堀口俊英氏は珈琲の研究で著名な人物。氏の指導を受けた珈琲店は全国に数限りない。

店内に入ると左手に長いキッチンカウンターがあり、右手にはテーブル席が比較的ゆったりと配置されている。チェアやテーブルのデザインは全くのバラバラで、スタルクの隣に出自不明の籐椅子が置かれている、と言った具合。内装全体を見ても統一感は無く、木部材にはあちこちで濃淡も樹種も異なるものが使われ、壁にはクロスの箇所もあれば左官もある。
キッチンカウンターの先の店内最奥にガラスで仕切られた一角がある。中の棚には無数のグラス類や何種類ものエスプレッソマシンなど、さまざまなカフェの道具がずらり。さらに客席のつきあたりの棚にはさまざまなスタイルのカップ類がずらり。
なるほど。どうやらここは決まったスタイルをプレゼンテーションする珈琲店ではない。カフェ開業を目指す人たちに「こういった道具がありますよ」と一通り紹介するためのお教室なのだろう。

最もベーシックなメニューのひとつであろうシティローストの味わいブレンドを注文。コーノ式のペーパードリップ。予想通り見事にクリアで、申し分無く均整がとれている。が、「美味しいか」と訪ねられたら、ちょっと首を傾げざるを得ない。さらにフレンチローストの深煎りブレンドを飲むと、まさしく理屈通りに苦味が少しばかり際立って感じられる。この調子で他のメニューも飲み進めると、味覚の座標上にきれいな等間隔の点がプロットされそうだ。
一方、アイスコーヒーはドリップコーヒー由来のバランスの良さに深みを加えたさわやかな味わい。製氷機の氷がわずかに(しかし明らかに)クリアさを損なってはいたが、迷い無く美味しいといえるものだった。また、さっくりと軽い食感のバナナのケーキとハムタル(ロールハムとタルタルソースのアメリカンサンド)はコーヒーと実に良く合う。

そしてこの日の一番の驚きはエスプレッソ。上の写真は飲みかけ(すみません)。
通常、エスプレッソは雑味も何もかもが全部入りの中に砂糖をどばっと入れて飲むものだが、このエスプレッソはなんともまろやか。期待されるコクと同時に、上品さすら感じさせる。
バランス重視のドリップコーヒーは、味の評価基準を持たない人に対しては有効な教材となるだろう。しかし、ひとたび珈琲好きの道に足を踏み入れ、他店のさまざまな味を知ってしまった人にとって、何の表現も持たない珈琲はわざわざ飲む価値のない珈琲でしかない。
ただ、徹底的な没個性が個性に転じることも世の中にはあるものだ。突出したところが無く、それでいてパンチのあるエスプレッソ。これは立派なオリジナルだと思う。
堀口珈琲世田谷店/東京都世田谷区船橋1-12-15/03-5477-4142
9:00-20:00/無休
5/21。めずらしく午前中から外出。御徒町の『カフェ・ラパン』で朝食。

正しいモーニングセット。喫茶店の幸福。
Cafe Lapin(カフェ・ラパン)/東京都台東区上野3-15-7
03-3832-7605/8:00-20:00(土-18:00)/日祝休
1/14。打合せの合間に代官山郵便局の地下にある『猿楽珈琲』へ。階段を下りると手前に別のカフェがあって、『猿楽珈琲』の入口はそのすぐ奥にある。
この日は『二十三番地珈琲』と『猿楽珈琲』、それから定番デザート3品(コーヒーゼリーとチーズケーキとチョコレートケーキ)のミニセットを注文。会計は注文が揃ったときにテーブルで行う事になっている。

珈琲は自家焙煎の一種のみ。5段階のローストで提供されている。上の二つはそのうち最も深煎りのもの。私たちには残念ながら豆の種類が分かるほどの知識は無いんだけど、味のバランスの良さとキレの良さ、そしてなにより深く心地良い香りと後味が印象的な珈琲だ。デザートはどれも比較的甘さ控えめで、それぞれの素材の持ち味を前面に出しつつも珈琲を引き立ててくれる。私たちが3品の中でも私たちが一番気に入ったのは珈琲ゼリー。

店内のライティングは全体にごく控えめ。アンティークの木造建築部材で仕切られた小さなブースごとに最小限の光がしつらえられている。BGMはモダンジャズ。読書をしたり、会話を楽しむには理想的な環境。手作り感は濃厚だけど、方向性が明快で不思議に押し付けがましいところが無い空間だ。その辺、なんとなくこの店の珈琲の味とも共通するものが有るような気がする。
猿楽珈琲/03-3496-8900
東京都渋谷区猿楽町23-3代官山郵便局ビルB1F正面
ショップカードに記されたこの店の営業案内が実にいかしている。
「お昼過ぎより夜中まで年中営業しております。
公衆電話はありません。
店内は禁煙です。」
猿楽珈琲(DAIKANYAMA FASHION STREET)
9/2。銀座『十一房珈琲』に初めて行った。ヴィンテージ(オールドビーン)コーヒーも揃う自家焙煎店。『ランブル』出身の山田幸男氏(高円寺『十一房珈琲』,荻窪『移山房』)から焙煎を学んだ故・及川俊彦氏が1978年に開業(開業当初の店名は『ベシェ珈琲店』だった)。阿佐ヶ谷『ドゥ・ワゾー』のマスターはこの銀座『十一房珈琲』の出身と聞く。

と、そんな事前情報から来る緊張感が一気に弛緩するくらいに『十一房珈琲』はあっけらかんと明るく清潔な雰囲気の店だった。店の手前半分を占領するロースターこそ多少物々しいものの、オフホワイトの壁や天井にダークウッドの造作やリブ材が控えめにあしらわれたインテリアはまるでフレッシュネスバーガー。ただし、どこを見てもほこり一つ無く掃除が行き届いていることが、この店のオーナーの気質を物語る。カウンター席に座ると、銅板製の換気フードやカウンターバックのディスプレイ棚が鈍い光沢を放つ様子が印象的。真空管アンプから古いジャズが控えめに流れる。
この日いただいたのはフルシティローストのブレンドと、開店26周年記念のヴィンテージ・パプア・ニューギニア(1978)。ネルドリップの動作は実に丁寧だ。時折豆を動かすようにネルを傾けるのと、抽出した珈琲を加熱してから提供するという2点がこの店の珈琲に対する考え方と場所柄とを表しているように思われた。
ブレンドはバランスの良さが際立つ味わい。予想した通り、店構え同様の親しみやすさ。一緒に注文したクッキーも甘さ控えめで美味しかった。対してパプア・ニューギニアのインパクトは実に強烈。あれほど深く、しかもクリアな珈琲を飲んだのは久しぶりな気がする。ほかのヴィンテージやストレートもぜひいただいてみなくては。
カジュアルさと奥深さの同居する銀座の名店。何度も足を運びたくなる珈琲店がまた増えた。
十一房珈琲店/東京都中央区銀座2-2-19/03-3564-3176
10:00-22:00(土11:00-21:00,日祝12:00-21:00)/無休
6/21。御徒町駅前で買い物の後、松坂屋裏手の路地沿いにある自家焙煎珈琲店『カフェ・ラパン』へ。

ガラス張りの店構えの向こうに程よく明かりを落とされた店内をうかがうことができる。エントランス脇には大きなロースターが鎮座。
家具・造作の類いはダークな木材で統一されている。とは言え『カファ・ブンナ』、『アンセーニュ・ダングル』系とは違い、ディテールは至って簡素なものだ。薄く飴色を纏った漆喰の壁が相応の年月を物語る。
ブレンドとハワイ・コナを注文。抽出はネルドリップで手早く行われる。ブレンドは後味がどっしりと効いて来るのが印象的。時間をかけて楽しむにはうってつけのパンチ力ある珈琲だ。対してハワイ・コナは芳香に欠けるような気はしたが、スッキリとした酸味が心地よいもの。日常使いの珈琲店としては文句無し。
さらに、ミックスサンド(下の写真右)は特筆に値するクオリティ。たっぷりと挟み込まれたフレッシュな野菜や玉子が実に嬉しい。ランチにはこれで十二分のボリューム感。サインドイッチは他にも何種類かあるので、今度は別のメニュ−も試してみたいと思う。

ブレンド400円、ミックスサンド500円という良心的(過ぎ)な価格設定がこれまた嬉しい。しかも豆売りは100gから対応してくれる。この日はスタッフの方お薦めのグァテマラを100g購入。挽いてもらったものをその日の夜にペーパードリップしてみると、これが素晴らしくバランスの良いクリアな味わいで驚いた。
Cafe Lapin (カフェ・ラパン)/東京都台東区上野3-15-7
03-3832-7605/8:00-20:00(土-18:00)/日祝休
『Cafe Enseigne D'angle』(カフェ・アンセーニュ・ダングル)の3店舗を先日ようやく巡り終えた。場所は原宿(下の写真左)、広尾(下の写真中)、そして自由が丘(下の写真右)。

中でも原宿店は最も古く(現在の本店は自由が丘店)、この店からは『武蔵野珈琲店』(吉祥寺)、『トロワ・バグ』(神保町)、『トロワ・シャンブル』(下北沢など)、『カフェ・リドル』(京都)、『宮越屋珈琲』(札幌など)などなど、数多くの名店マスターが輩出されている。オーナー氏は六本木の『カファ・ブンナ』にいらした方。ちなみに『カファ・ブンナ』をお一人で切り盛りされているあのシャンソン通のマスター氏は『コクテール堂』系の店舗スタイルを確立された人物なのだそうだ。また(これは完全に余談だが)、『カファ・ブンナ』の下階に昨年始めまで内田繁氏デザインの伝説的バー『バルコン』が存在したことは、空間デザインに携わる私たちにとって忘れ難い。店に歴史有り。
フレンチスタイルをうたう『アンセーニュ・ダングル』のブレンドは当然ながら深煎りネルドリップで、パンチ力満点。特にドゥミタスは、口に含むとエイジングされた珈琲豆の持つ苦み、酸味、そして甘みのすべてが一気呵成に押し寄せてくる。決して奇麗な味わいではないが、野蛮さの中にも筋の通ったところを感じさせるこの店の珈琲には、やはり他に無い魅力がある。暖かい季節には琥珀の女王(グラスで供される冷たい珈琲)も美味しい。店のデザインにも一貫性がある。漆喰とダークに染色された木材、そして煉瓦を大胆に用いた内外装は奥様方にも受け入れられ易いが、実のところはむしろ男らしく豪快な意匠だと言える。ライティングについてはスタンドライトと間接照明がメインでダウンライトがとても少ないのが特徴。店内はほの暗い洞窟のようだ。わざわざカウンターから離れた場所にレジを置くスタイルも3店に共通している。さらに嬉しいのはどこも無休で23時まで営業していること。店の規模については各店様々。コンパクトで隠れ家的な原宿店もいいが、自由が丘店の大空間も捨て難い。
Cafe Enseigne D'angle(カフェ・アンセーニュ・ダングル)
10:00-23:00/無休
原宿店/東京都渋谷区千駄ケ谷3-61-11-102/03-3405-4482
広尾店/東京都港区南麻布5-15-25-2F/03-3449-8853
自由が丘店/東京都目黒区自由が丘1-13-6/03-3725-4749
3/25。吉祥寺で打ち合わせの後、珈琲名店探訪に。最初は聖地・『もか』に行ってみたんだけど残念ながら店休日(火・金)。
続いて向かったのは『武蔵野珈琲店』。場所は丸井の脇道(プチ竹下通りみたいなところだ)沿いにある雑居ビル2F。外から伺う限りでは美味しい珈琲の飲める店があるようにはとてもじゃないが見えない。ビル中央の階段を上り、右手にある入口(下の写真左)までたどり着いてもまだ不安な感じだったが、ドアを開け、年配の女性の落ち着いた応対に接してホッと一安心。
漆喰の壁。ダークな染色の木製造作。スタンドライト主体の控えめなライティング。小さな店内は、その昔、この店のオーナーが修行なさったと言う『アンセーニュ・ダングル』を彷彿させるつくりと珈琲の香りで満たされていた。店の最奥にある大きなガラス窓際の小さなテーブルに着くと、さっきの通りが手に取るように見下ろせる。特等席の気分。ブレンドとドゥミタスを注文。店内中央のカウンターで白髪のマスター氏がネルドリップ。出てきた珈琲もやはりその出自を伺わせる深い味わいだった。パンチはあるが、その効き方が『アンセーニュ・ダングル』よりも緩やかに思われるのは、珈琲の味がそうなのか、それともこの店の雰囲気がそう感じさせるのか。
すっかり満足して会計を済ませ、割引券を受け取る。店を出る時のマスターと先の女性の笑顔がなんとも柔和で、心に残った。いい店だなあ。また行かねば。
武蔵野珈琲店/東京都武蔵野市吉祥寺南町1-16-11-205
0422-47-6741/11:00-23:00/無休
そして3/28。代々木で打ち合わせの後、中央線で阿佐ヶ谷へ。北口を出て中杉通りを北上すること10分ほど。左手に『カフェ・ドゥ・ワゾー』が現れる(上の写真右)。キューブ型のアクリル看板に小さなロゴ。ガラス張りのエントランス越しに黒いベストのマスター氏が見える。鉢植えの植栽にさえ目をつぶれば、それはもう極めてクールな佇まい。
店に入ると、そこはカウンター席とテーブルがふたつだけの小さな世界。本当はカウンターでマスターのお手前を拝見したかったんだけど、一杯だったので仕方なく奥のテーブルへ。その脇にガラス張りの焙煎室。大きな焙煎器が鎮座している。
あらためて店内を見渡すと、年期は感じられるものの(オープン後20年ほど経つらしい)、明るくスッキリした印象。看板同様、シンプルなインテリア(カウンター内のオーブンの置き場所に要注目)。和洋を取り混ぜた花がいくつも置かれているのだが、これがどれもちゃんとした生花であることに驚く。さらにお冷やを一口飲んでますます期待が高まった。水が美味い。よく見ると氷が手割りであることに気づく。
ハワイ・コナとブレンドのフルシティ・ローストを注文。少し離れたところからでも実に丁寧にネルドリップするマスターの様子が伺える。そして出てきたのは衝撃的な珈琲だった。豆も煎り方も全く別な2種の珈琲ではあるが、この店の目指す味の方向性は明白だ。とてつもなくクリアでまろやか。豆の持つキャラクターが香り立ち、舌にダイレクトに伝わる。一点の濁りも無いこの洗練度は、東京の珈琲店ではこれまでに体験したことが無い。フルシティ・ロースト・ブレンドの均整の取れた味わいも素晴らしいが、ハワイ・コナの独特な芳香も捨て難い。さらにフルシティ・ロースト・ブレンドをドゥミタスで注文してみると、これまた想像以上に強力。まさに絶品。
マスター氏(『十一房珈琲店』で修行なさったと聞く)は見るからに職人気質な方で、注文が立て込むと離れた席まで気が回らなくなる傾向はあるが、肝心の仕事には一切抜かりが無いどころか丁寧過ぎるくらい丁寧だ。それでいて新聞や雑誌を読みながら思い思いの時間を過ごす常連客と思しい人たちの醸し出す雰囲気は和やかで、この店を求道的な珈琲店ではなく地元のカフェとして成立させているように思えた。
福岡・『珈琲美美』に比肩しうる店をついに見つけたぞ。なんだか中央線沿いに引っ越したい熱が高まってきた。
CAFE DEUX OISEAUX(カフェ・ドゥ・ワゾー)/東京都杉並区阿佐谷北4-6-28
03-3338-8044/12:00-23:00/木休
3/15。カレーで腹ごしらえの後、珈琲の名店をはしご。
勝野は大のコーヒー好き。しかし、東京にやってきてからかれこれ10年が経つと言うのにまだ足を運んだことの無いコーヒーの名店は多い。この日巡った2件はまさしく名店中の名店との呼び声高い『CAFE DE LAMBRE』(カフェ・ド・ランブル)と『Cafe Bach』(カフェ・バッハ)。
先ずは南千住。地下鉄駅前の歩道橋を越えてすぐの大きな道路に沿って浅草方面へ。泪橋の交差点を過ぎてさらに少し歩くと右手に『バッハ』(上の写真左)が現れる。1968年オープン、72年から自家焙煎を開始したという。
この辺りはいわゆる山谷と呼ばれる地域。大阪で言うと西成みたいなもんだけど、昼間歩いてる分には特に身の危険を感じるようなことは無い。と言うか、道の広さに対して人や車の通りがやけに少ない。「こんなところで客が来るのかしら?」と思いつつ自動ドアから入ると、3、40席くらいの店内は驚いたことにほぼ満席状態だった。この店は地元に愛されている。
内装・外装を含め、店のつくりは言及するまでもない代物だが、カウンターバックにずらりと並んだコーヒー豆のガラス瓶にはしっかりとスポットライトが当たっている。見事に粒の揃った美しい豆。店に立つ4名ほどのスタッフはみな若いが、無駄の無い動きはまさにプロフェッショナルのそれだ。
カウンター席の一番奥でバッハ・ブレンドとカフェ・シュヴァルツァーを注文。バッハ式と呼ばれるオリジナルのペーパードリップがこの店の特徴のひとつ。バッハ・ブレンドは実に香り高く、豆のもつふくよかな甘みがふわりと口の中に広がる。他には余計な味も香りも一切感じない。とてつもなくストレートでクリアなコーヒーだ。一方カフェ・シュヴァルツァーは深入りの豆から抽出された濃厚なコーヒー。豆のうまみとクリアな苦み。一緒に出される小さなグラスに入ったソーダ水と交互に飲めば何度でも新鮮な味わいが楽しめる。これはなんと合理的な供し方か。
続いてリースヒェンと苺のショートケーキを注文。リースヒェンは冷たい濃縮コーヒー。これが凄かった。クリアなコーヒーにとろりとした舌触りとほのかなカラメルの風味が相まって、官能的な味わいを醸し出す。苺のショートには突出したところは無いが、コーヒーの楽しみを邪魔しないシンプルさに好感が持てる。
生豆の香りとうまみだけをストレートに味わえる店。洗練の極み。また行かねば。
Cafe Bach(カフェ・バッハ)/東京都台東区日本堤1-23-9
03-3875-2669/8:30-21:00/金休
地下鉄で銀座へ移動。『ランブル』は首都高速にほど近い東京三菱銀行の裏手にある。創業はなんと1948年。現在の店舗は隣店の火災に巻き込まれて移転した後のものらしいが、すでに十二分に古びていい感じの店構え(上の写真右)。看板には「珈琲だけの店」と書いてある。オーナーの関口一郎氏は自前のエージングルーム(コーヒー豆をわざわざ何年も寝かせて味がさらに良くなるのを待つ)まで所有する求道者のような人物と聞く。
店内に入るとBGMがJ-Waveだったのにはちょっと面食らったが、壁・天井にラワン材を多用した内装はすっきりとしたつくりながらも味わい深い。カウンター前に設えられた椅子は足掛けから張り出した軸に固定されている。この軸と座面がともに回転するのが面白い。よく出来ている。
二十数席ほどのちいさな店を切り盛りするお二人はご夫婦だろうか。常連と思しき年配の男性客に少々気後れしつつ、カフェ・ノワールとドゥミ・タッスを注文。こちらはネルドリップ。香り、甘み、酸み、苦みの全てがはっとするほど鮮やかなパンチ力満点のコーヒー。ドゥミ・タッスのまろやかさと味わい深さはまさに珠玉。オリジナルのドゥミ・タッス用カップは取手が無いのが特徴的。念入りに抽出する間にコーヒーが適温に冷めるため、取手は必要ないのだ。
さらにオリジナルメニューのカフェ・オ・レとマサグランを注文。マサグランは小さなグラスで供される濃くて冷たいブラックコーヒー。こちらも予想通りの逸品だったが、意外にも私たちが衝撃を受けたのはカフェ・オ・レの方だった。そのままでも絶妙なバランスのコーヒーにミルクが加わるわけだが、そのバランスが崩れるのではなく別の地点に見事に着地した感じ。しばらく堪能したところで一緒に供される砂糖とナツメグのパウダーを少し加えれば、その素晴らしいコクと風味が2度楽しめる。文句無しに過去最高のカフェ・オ・レだった。
コーヒーの全てを味わい尽くすことのできる店。また行かねば。
CAFE DE LAMBRE(カフェ・ド・ランブル)/東京都中央区銀座8-10-15
03-3571-1551/12:00-22:00(日祝12:00-19:00)/無休