life
life of "love the life"

身体と空間の芸術, 都市とデザインと : ネイチャー・センス展

2010/8/25。六本木・森美術館で『ネイチャー・センス展』

会場に入るとゆったりしたアプローチの向こうに先ず見えたのが吉岡徳仁氏の作品『スノー』(2010)。1997年以降、ISSAY MIYAKEのウィンドウディスプレイなどで吉岡氏が用いて来た手法を発展させたもの。以下、写真はクリックで拡大。

100825-sensingnature01.jpg

半透明なシート状の面で前後を覆われた室内に大量の羽毛が封じ込められている。室内の床には小さなファンが固定されており、断続的に風を送り出す。羽毛が吹き上げられ舞い落ちる様子は、間近にスローモーションの大波を見るようで幻想的だ。

100825-sensingnature03.jpg

主な照明は右側にまわり込んだ通路奥のスペース全体を用いた面光源によって間接的に賄われていた。直接の照明を一切用いないことで、ミニマルなディテールを損なうこと無くそのままに見せる手法。見事だ。こちらはシート面の近景。左下にファンが見える。

100825-sensingnature07.jpg

上の写真は同じく吉岡氏による『ウォーター・ブロック』(2002)シリーズのひとつ。レンズやプリズムなどに用いられる光学ガラスを塊のままベンチにしたもの。断面から向こう側を見るとこんな具合こちらはそのディテール。こちらは観客が居る展示室内の様子。

『スノー』の手法にも『ウォーター・ブロック』の素材にも先行する使用事例があるにはあるが、これほど大胆で、しかも極めて質の高い展示を見せつけられてしまった後では、最早誰もが吉岡氏の専売特許と認めるより他は無いだろう。そう思わせるのはまさにデザインの力に他ならない。

続いては篠田太郎氏の『残響』(2009-2010)。巨大な三面のスクリーンそれぞれに内側からビデオ映像が投影されていた。駐車場、動物園、首都高下の日本橋川、台場など。室内にこつ然と現れたフルサイズの都市に人気は無く、それを間近で見るが故に異様なリアリティが感じられる。物理的な制約を無視して編集された景観。この日最も印象的だった作品。

100825-sensingnature13.jpg

スクリーンの裏側に隠れるようにしてちいさな一室で展示されていたのが同じく篠田氏による『忘却の模型』(2006)。樹脂とスチールで出来た天動説の宇宙模型。地上から湧き出た血液地平線から流れ落ち再び地上へと循環する。

100825-sensingnature16.jpg

次の展示室にあったのは篠田氏の『銀河』(2010)。乳白色の液体で満たされたドーナツ型のプール。天井に取り付けられた数十個の装置から時折一斉に滴が落下し、液面に描かれた無数の波紋もまた同時に消える(近景)。重森三玲による東福寺方丈庭園東庭からの着想とのこと。

100825-sensingnature19.jpg

トリは栗林隆氏。上の写真は『ヴァルト・アウス・ヴァルト(林による林)』(2010)。大きな展示室いっぱいにひろがる白い林。これは実際の樹木を阿波和紙で象って天井から吊るしたもの。そもそも樹木を原材料とする紙で出来た人工の林。観客は林の下から室内に入り、ところどころに開けられた穴から「地上」に顔を出す。気分はまるで冬眠の途中で目覚めた小動物。楽しい作品だった。こちらは「地下」と「地上」の境目の写真。栗林氏の作品としては他に『インゼルン 2010(島々2010)』(2010/全景頂上からの眺め)、『YATAI TRIP(ヤタイトリップ)』(2009-2010/全景)が出展されていた。

新作を中心に、ひとつのテーマに沿って、少数の作家による体験型のインスタレーションを大空間いっぱいにゆったりと配した内容は美術展としては非常に新鮮で現代的だと思った。今後もこうした思い切ったイベントをぜひ見てみたいものだ。

「自然」の捉え方は千差万別。他の作家による全く別の『ネイチャー・センス展』もあり得るだろう。

2011年02月13日 05:00 | trackbacks (0) | comments (0)

都市とデザインと : 東福寺 光明院

2010/8/16。東福寺境内から六波羅門を抜けて道なりに南下。ほどなく右手に光明院が現れる。東福寺塔頭(たっちゅう)のひとつで重森三玲1939年作庭の波心庭(はしんのにわ)を擁する。山門から左手に進むと無人の入口の左脇に竹筒が置かれている(こちらはモミジの葉が型押しされた入口土間のディテール)。その中に各々心ばかりの拝観料を納め、先ずは方丈の方へ上がらせていただいた。以下、写真はクリックで拡大。

100816-komyoin01.jpg

上の写真は方丈手前から見た波心庭全景。白砂と苔が入り組んだ微妙な凹凸面に75の石が立つ。背後の斜面を駆け上がるサツキやツツジの丁寧な刈り込み。覆い被さるモミジ。その様子はむくむくと湧き上がり渦巻く雲を思わせる。立体的。

100816-komyoin02.jpg

上の写真は方丈から書院を挟んで南側にある本堂からの全景。おそらく正面と言って差し支え無いだろう。モミジの向こう側には蘿月庵(らげつあん)と呼ばれる茶室があり、そのデザインを手掛けたのも重森とのこと。この日は下調べが足りず見逃してしまった。加えて、山門と入口前の間にあった雲嶺庭(うんれいてい)も小規模ながら重森の作。写真撮っとけば良かった。残念。

100816-komyoin06.jpg

こちらは同じ位置から見た縦位置での写真。上の写真は中央組石まわりのディテール。苔のエッジに小さめの石が無数に埋め込まれ、独特の表情をつくり出しているのが分かる。こうしたやや大きめの組石が庭の北側と南側にもあり、それぞれに釈迦三尊、阿弥陀三尊、薬師三尊を表すそうだ。こちらは本堂南側からの全景。

100816-komyoin03.jpg

上の写真は方丈東側の渡り廊下から見た全景。こちらはやや方丈寄りの位置から庭北側を見たところ。下は同じ位置から見た縦位置での写真。

100816-komyoin08.jpg

こちらは書院から障子を通して庭を見たところ。こちらは書院の南面にある丸窓の様子。北面の欄間には左官を曲線状に空かしたユニークな意匠が施されている。

明快かつ融通無碍な構成によって生み出される変化に富んだインスタレーション。宗教的な意味合いは十分に含みながらも、この庭の眺めは全くクールで斬新だ。個人的には詩仙堂に勝るとも劣らぬ衝撃的な体験。酷暑も意識の彼方へと遠のいた。

光明院(京都観光Navi)

2011年02月12日 02:00 | trackbacks (0) | comments (0)

都市とデザインと : 京都府 東福寺

8/16。川端三条ではまぞぉさんチームと合流し、京阪で東福寺へ。駅前の本町通をしばらく南下。九条通を横断し、東福寺交番のサインが現れたところで左折。北門をくぐり、道なりにまたしばらく。洗玉澗と呼ばれる渓谷に掛かる臥龍橋(1847年建造の木造橋廊/橋の途中での写真)を渡り、日下門からようやく境内に入る。左に経蔵、右に本堂を見ながら奥へと進み、庫裡の入口で拝観料を納めていよいよ方丈庭園へ。建物(1890年築)の四方を重森三玲デザインの庭が取り巻く。1938年の作庭。以下、写真はクリックで拡大。

東福寺方丈航空写真(Googleマップ)

100816-tofukuji03.jpg

庫裡の廊下から渡り廊下に出るとすぐ右手に登場するのが東庭。上の写真は正面右側から、こちらは左側から見たところ。苔と白砂の平面に円柱型の石が点在し、北斗七星を構成する。これらの石材は境内南西にある東司(とうす/便所)の柱石の余りとのこと。

100816-tofukuji06.jpg

上の写真は渡り廊下の反対側を見たところ。方丈の正面にひろがる南庭。大きさも高さも様々な石が苔の築山へと視線を導くように置かれている。こちらは正面左側から、こちらは右側からの眺め。こちらは白砂と苔と葛石がぶつかる右側手前隅の厳しいディテール。幾何学的にミニマライズされた鎌倉庭園。

100816-tofukuji11.jpg

方丈正面を通って右へ回ると西庭。上の写真は正面やや右側から見たディテール。方形に刈り込んださつきが市松に配置され、苔の曲線とぶつかり合う。こちらは南庭側から見た西庭全景。こちらはさつきを手前に通天橋を眺めたところ。

100816-tofukuji15.jpg

縁側をさらに建物の裏側へ進むと北庭へ至る。上の写真は正面左側からの全景。苔の面に市松に置かれた敷石のグリッッドは、奥へゆくに従ってその密度を粗くし、やがてサツキの丸い刈り込みとその奥のモミジへ、さらにその向こうの渓谷へとかき消える。こちらは同じ方向を見た横位置での全景。こちらはやや近景。こちらは正面右側からの全景。下の写真は北庭の手前側ディテール。緑の浸食が全景とは異なるかたちで進んでいる。

100816-tofukuji17.jpg

様式から抽象へ、そして無へと連なる全体構成は、極めてシンプルであればこそ、強く心に響くものだった。

方丈を離れ、本堂の東側を通って三門(1405年築)に目を見張りつつ南下。六波羅門を抜けて次の目的地へ。龍吟庵を見逃したことに気付いたのは随分後のこと。また行かなくちゃ。

東福寺
東福寺(Wikipedia)

2011年02月07日 04:00 | trackbacks (0) | comments (0)

食べたり飲んだり : 川端四条 かね正

2010/8/11。『かね正』で鰻。お茶漬鰻製造販売の有名店『かね庄』(創業は1866年)が経営する鰻料理店。オープンは2000年とのこと。以下、写真はクリックで拡大。

川端四条の交差点を東に入り最初の信号で左折。大和大路を少し北上すると左手に郵便局が現れる。その右手のビル脇にある木戸上を見ると『かね正』の行灯看板。路地と言うより裏口と言った感じのアプローチの奥右手に生成りの暖簾が掛かる。人家の玄関を伺うような気分で店内へ。

100811-kanesho01.jpg

入ると正面に会計場を兼ねたキッチンの入口。左手にこぢんまりした客席がある。キッチンに面してカウンター席が6つ。通路を挟んで路地側にテーブル席が2つ。内装は白木に黄土色の左官壁、御影石調のビニルタイルで数寄屋風に造作されている。この日はコンロの正面にあたるカウンターの左端に落ち着いた。きも焼きとうな重、きんし丼を注文。

100811-kanesho03.jpg

上の写真がきんし丼。目にも鮮やかな錦糸卵の下に細切りの鰻。ご飯にはタレと胡麻がかかっている。

100811-kanesho04.jpg

上の写真は鰻の発掘現場近景。

100811-kanesho05.jpg

上の写真がうな重。こちらの鰻は蒸し工程無しの背開きとのこと。つまり調理法としては西と東が混ざっているわけだが、これが素晴らしい。関西風ならではの香ばしさに、しっかりした食べごたえが加わっている。合理的。関東の鰻に慣れた者からすれば一見して「大丈夫かよ」と突っ込みたくなるようなきんし丼が見事に成立するのはこの力強い鰻のおかげだ。

100811-kanesho06.jpg

上の写真はきも焼き。こちらは見た目より優しい味。美味い。

カウンター席にはキッチンとの高低差が少なく仕切りがほとんど無い。店を切り盛りするお二人(父子だろうか)は揃ってもの静かではあるものの、その心意気と丁寧なお仕事ぶりはこの目で十二分に拝見させていただくことができた。

新御徒町『やしま』に続いて、京都でも近所に鰻の名店を発見。ラッキー。

かね正(DigiStyle京都)
かね正(KYOTRIP)

かね正/京都府京都市東山区常盤町155-2/075-532-5830
11:30-14:00, 17:30-22:00/日木休

2011年02月01日 16:00 | trackbacks (0) | comments (2)
back|mail
copyright