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life of "love the life"

身体と空間の芸術, 都市とデザインと : 展覧会行脚のメモ 2009年1月

1/16。日本橋三越本店新館7階ギャラリーで『画業40年 東京芸術大学退任記念 田淵俊夫展』。画家・田淵俊夫氏の手掛けた1966年から2007年までの主要な作品が一堂に。すべてが日本画のテクニックで描かれてはいるものの、用いられた多様なモティーフと手法に触れるうちに、それらを敢えて「日本画」と呼ぶことの無意味さを痛感する。水墨画ですら現代的な絵画として自然に受け入れられるくらいにストレートでニュートラルな田淵氏の表現が、厳しい写実によって支えられていることは興味深い。女竹の細密で瑞々しい輪郭をふわりと覆う緑色の霞。金色の海面にぽつんと浮かぶ一艘の船。深い藍色に塗り込まれた何気ない都会の風景。目の前に在る圧倒的なリアリティに、私たちはほとんど愕然とした心持ちになった。自身が感じた事物をこれほど真摯に作品化することが、果たして私たちに可能だろうか。

同日。日本橋高島屋8階ホールで『智積院講堂襖絵完成記念 田淵俊夫展』。計60面の墨絵の襖がゆったりと展示された贅沢な空間。三越の後で見ると、一連の襖絵がこれまでの田淵作品の集大成としての意味合いを持つものであることがよく分かる。5室のうち、最も強い印象を受けたのは、秋の情景を描いた『智慧の間』。無数のレイヤーを重ねたような奥行きを感じさせるすすき野が、一発勝負の墨で描かれたものであるとは信じ難い。枝一杯に実をつけた柿の木は、田淵氏の言う「寂しさ」よりも、むしろ爆発的な生命の喜びを強く感じさせた。

さらに同日。六本木・21_21 DESIGN SIGHTで『第4回企画展 吉岡徳仁ディレクション「セカンドネイチャー」展』。全体に作品の成り立ちや背景に関する解説が乏しく、一般向きの内容とは言い難い。メインの展示室は全て吉岡氏の作品に割かれており、ほぼ個展の様相。場末に追いやられた他の7組がなんだか気の毒ではあったが、あからさまにアンバランスなスペース配分はある意味見物だったかも。
特に印象的だったのは東信氏(あずままこと/フラワーアーティスト)とロス・ラブグローブ氏の作品。骨の組成を下敷きにした光造形によるスタディモデル『CELLULAR AUTOMATION Origin of Species 2』(ラブグローブ作/2008)は、そのレゴブロックさながらの不完全さがかえって自然の造形のエレガントさを思い知らせる。わさわさの葉っぱをトルソに組み合わせた『LEAF MAN』と五葉松を氷漬けにした『式2』(どちらも東作/2008)は、乾いたユーモアの刃で命の本質へ斬り込む。瞬殺的。他方、中川幸夫氏の作品『迫る光』(1980)は断ち落とされたような片腕を象った透明なガラスのオブジェ。植物どころかまったくの無機物であるにも関わらず、生々しいことこの上ない。逆説の生け花。期せずして見応えある新旧フラワーアーティスト対決を楽しませていただいた。

1/23。京橋・INAXギャラリー1で『デザイン満開 九州列車の旅』水戸岡鋭治氏(ドーンデザイン研究所)がデザインを手掛けたJR九州の車両の数々を紹介する内容。スケッチや図面、実際に使用されている部材や資材などがギャラリー狭しと詰め込まれていた。ここでの水戸岡氏のデザインの対象は車両本体だけでなく、ロゴやポスターなどのグラフィック、椅子とその張地、乗務員のユニフォーム、弁当のパッケージにまで及ぶ。結果として、水戸岡氏はほとんど都市環境規模と言えるくらいのクリエイティブディレクションをやり遂げてきた。『つばめ』や『ソニック』などの言わずと知れた代表作の影には、地味ながら魅力的なローカル車両が数多く存在する。その丁寧なデザインがあたりまえのように生活に馴染んでいる様子は感動的だ。列車に乗ることを目的に、また九州を旅してみたくなった。

2009年02月22日 08:00 | trackbacks (0) | comments (0)
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