life
life of "love the life"

珈琲の美味しい店 : 本所吾妻橋・KOJIRO

12/14。『CAFE STYLE KOJIRO』(カフェ・スタイル・コジロウ)を初めて訪れた。2007年5月に開業した自家焙煎珈琲店。マスターはあの銀座『カフェ・ド・ランブル』出身の人物と聞いていた。

071214_higashikomagatakojiro01.jpg

春日通りを東に進み墨田区側へ。そのまましばらく行ったところでセブンイレブンの角を左に曲がる。陽の暮れた本所一帯はひっそりとして暗い。町工場や民家の並ぶ路地裏を少し北上すると、右手の道脇にシルバーのガルバリウム鋼板に覆われたフラットな壁面が唐突に現れる。これが『KOJIRO』の店構え。近づくと、その壁の真ん中に半間ほどの幅のスリット状の空間があり、行灯看板の青白い光が漏れ出している。微妙にSFチックなステップを上り、左側のドアを開けて店内へ。

入口正面は突き当たりで、右手へ進むと通路を挟んで左側に小さなテーブルが3つ、右側が5席のカウンターとなっている。8畳間ほどの空間は、壁面を構造用合板、床をウッドフローリング調の塩ビシートで仕上げた極めて簡素なつくり。カウンターがほぼ埋まっていたので、ひとまず奥側のテーブルに落ち着いた。テーブルの幅は40cmほど。壁際は一列のベンチで、通路側に透明な座面のスツールが3つちょこんと置かれている。一応6席の体裁ではあるものの、実質的にテーブルは4席プラスアルファと言ったところだろう。メニューを見るとコーヒーはどれも三段階の濃さが選べるようになっている。濃いめのブレンドとプリンを注文。

071214_higashikomagatakojiro02.jpg

この日のカップ&ソーサーはアレッシィ製。コーヒーのまろやかさと、力強く咥内にひろがる香ばしい風味は、まさしく『ランブル』そのものだ。プリンの脇にはカラメルの替わりに少量の水出しコーヒーが添えられる(こちらのカップはイッタラ製)。少々意外だが、濃厚なプリンとの取り合わせは、違和感が無いどころかもう実に絶妙なものだった。

続いてブラン・エ・ノワールとカフェオレを注文。カウンターが空いたのでマスター氏の申し出に従い有り難く移動させていただく。カウンターバックのカップボードに並ぶシンプルなデザインの器類は、マスター氏の好みを反映したものだろう。その中に1ダースほど混じった取手の無い染付のデミタスカップは『ランブル』のオリジナルだ。

造り付けの什器類がほとんど無く、いささか雑然として見えるカウンターバックの中央には、ステンレス張りの小型冷蔵庫が腰高に持ち上げられて鎮座している。扉を開けると冷蔵庫の中には氷の塊が収められており、その上で転がすようにしてシェーカーを冷やし、そこからコーヒーをシャンパングラスに移す。エバミルクを浮かせるとブラン・エ・ノワールの完成。
冷蔵庫の右脇には唐突に家庭用の洗濯機が置かれている。そう言えば『ランブル』も丸きりこうだった。素人には伺い知れないが、一見奇妙な機材配置の全てに合理的な意味があるに違いない。
ナツメグを添えて供される濃厚な味わいのカフェオレもまた紛うこと無き『ランブル』ゆずり。素晴らしい。

帰り際、マスター氏に「大変美味しかったです」と伝えると、それまでにこりともしなかった顔が一気にほころんで「恐縮です」と仰った。店の立地条件だけを見れば、コーヒーのクオリティどころか商売そのものが成り立つのかどうかさえ危ぶまれるが、この腕前にこの人柄。きっと大丈夫だ。今後は『なにわや』と合わせて通わせていただきたいと思う。

しばらく歩いたところで、店のBGMがラジカセから流れるJ-WAVEだったことにふと気付いた。これまた『ランブル』と同じではないか。厩橋から浅草の灯を眺めながら、なんだか微笑ましい気分になった。

CAFE STYLE KOJIRO(カフェ・スタイル・コジロウ)
東京都墨田区東駒形2-7-3/03-5608-3528
11:00-21:00(日祝-20:00)/火休

2007年12月31日 09:00 | trackbacks (0) | comments (2)

食べたり飲んだり : 浅草・おがわ

12/14と12/19。浅草では『亀十』と並ぶどら焼きの有名店、『おがわ』を初めて訪れた。二日に渡ったのは『おがわ』に寿店と雷門店の2店があるため。開業年は不明。どちらも近くの有名鰻店『初小川』から分かれた兄弟店で、看板やパッケージにあしらわれた鰻のマークがそのゆかりを示す。そう聞くと「なるほど」とは思うのだが、通り掛って一見しただけでは何屋なのやら判断がつかない。

071219_asakusaogawa01.jpg

上の写真左が寿店、右が雷門店の店構え。どちらも立派な木戸に藍暖簾。店内の様子は歩道からはほとんど伺えない。

田原町の交差点から浅草通りを東へ進み、やや駒形橋寄りの角を右に曲がると、ほどなく右手に渋いトーンのグリーンのタイルが貼られた低層ビルが見つかる。寿店があるのはその1F。おそらく上階はお住まいだろう。ほの暗い店内には正面に小さなカウンター、右手にちいさな床の間風のディスプレイがあるだけで、その手前の空間は2、3人も立てば一杯になるくらいの狭さ。それでも和菓子店らしく整った風情に好感が持てる。
左手の壁にある品書きには何個詰めで幾ら、としか書かれていない。三角巾にエプロン姿の年配の女性店員さんに、どんな種類があるかをか訪ねたところ、小豆餡、白餡、鶯餡があるとのこと。小豆を2個、他を一個ずつ購入した。

一方、雷門店があるのは三方を高いビルに囲まれ取り残されたように佇む古い木造2階建の1F。建物は浅草通りに面しており、そばの信号を渡るとすぐの場所に寿店がある。木戸を開けると左手に縁台、右手にカウンター。店内はやはり狭く、カウンターの上には包装用の箱が積み上げられており、いささか雑然とした雰囲気となっている。どら焼きの種類は寿店と同じ。

071219_asakusaogawa02.jpg

上の写真は寿店のどら焼き三種。手前が小豆餡、その向こうが鶯餡で、いちばん奥が白餡。

071219_asakusaogawa03.jpg

上の写真は寿店(左)と雷門店(右)のどら焼き(小豆餡)の断面。サイズは寿店の方が小振り。皮と餡とのボリュームのバランスが両者では明らかに異なる。食べてみると味も大違いで、店名こそ同じではあるものの、ふたつの『おがわ』はどうやら全く別の店と考えた方がよさそうだ。

どちらが美味しいかと問われれば、寿店に軍配が上がる。その上品できめ細かな食感と豊かな風味は、『うさぎや』には及ばずとも十二分に素晴らしい。餡については、私たちの好みからすると、若干ながら砂糖甘さが強いように思われるが、やはりきめ細かで美味い。雷門店のどら焼きは、寿店に比べるとかなり素朴なつくりで、オーバーに言うとなんとなくホットケーキ的だ。それでも専門店の商品として一定のレベルには達している。

どちらの店もアトリエから浅草までの途中にあり、徒歩でもせいぜい7、8分なのが有り難い。またぜひ立ち寄らせていただこう。

おがわ寿店/東京都台東区寿4-13-14/03-3841-2359
営業時間不明(17:00くらいまで,売切御免)/店休日不明

おがわ雷門店/東京都台東区雷門2-6-4/03-3844-4748
9:30-15:00(売切御免)/日休

2007年12月30日 20:00 | trackbacks (0) | comments (0)

都市とデザインと : IKEA港北

12/8。フランス車をたくさん見た後、ウヱハラ先生のルーテシア号で横浜方面へ移動。『IKEA港北』を訪れた。言わずと知れたスウェーデンの巨大ハウスウェアストア。『IKEA港北』は『IKEA船橋』(2006年4月オープン)に続き、2006年9月、ヤナセ横浜デポー跡地にオープンしている。商売柄、行っとかないとマズいかなあ、とは思いつつも、なぜか今まで縁のなかったIKEAの全貌を、この日ようやくじっくりと見ることができた。

到着したのは14時手前。お腹が空いていたため、先に2Fのレストランへ行くことに。ここだけでも一般的なファミリーレストランの3倍くらいの広さがありそうだ。しかも、ランチには遅めの時刻にもかかわらず、テーブルはほぼ埋まっていた。なんとか居場所を確保して、学食を思わせるデリカウンターへ。メニューはそれぞれ注文する場所が決まっており、迷ったり後戻りをしようものならたちまち混雑の原因となる。若干殺伐とした雰囲気の漂う中、どうにか食事を確保。

071208_ikeakohoku04.jpg

見た目はアレだが、味はそんなに悪くない(デザートは選びようによっては危険)。野菜料理のプレートは大方ポテトによって占められている。その他のプレートにもかなりの確率でポテトがごろんと添えられており、スウェーデンの人はそんなにポテト好きなのか、と不思議な気がした。写真のボリュームで1500円分くらい。欲張り過ぎ。ランチとしてはちょっとヘビーだった(特にポテトが)。

071208_ikeakohoku01.jpg

そして、いよいよ売場へ。入口は2F、レジは1Fにそれぞれ1カ所しかなく、客動線は大まかには一方通行に限定されている。各アイテムの売場脇に、その使用シーンを構成した四畳半から六畳間くらいのブースがずらりと並んでいるのが特徴的だ。ソファやチェア、テーブルや収納家具、テーブルウェアやファブリック、照明器具やキッチン造作に至るまで、住まいに関係するものについては置いていないものは無く、バリエーションも極めて豊富。その多くがアジア地域産のIKEAオリジナル商品であり、価格設定はかなり低く抑えられている。

071208_ikeakohoku02.jpg

上の写真は順路の終盤に登場する組み立て式の家具パーツ売場。目眩のするような圧倒的スケール。

071208_ikeakohoku03.jpg

上の写真はレジのエリア。かなりの台数が稼働してはいたが、それでも押し寄せる客をなかなかさばききれない様子だった。レストランと同様、ここでは客が多少我慢してでも店側のやり方に素直に従うことが求められる。

話にはなんとなく聞いていたものの、IKEAの広大さは想像をはるかに上回るものだった。見終わった後の疲労と充実感はほとんど東京モーターショーにも匹敵するほど。ただし、その安さについては商品の質からすると妥当であり、買い得だと思われるようなものはあまり無い。あれだけ夥しいボリュームの、衝動買いを誘発するには十分な価格帯の商品に囲まれていたのに、結局何一つ欲しいと思うものが無かったことには自分たち自身驚きを覚えた。

ヨーロッパの人々の生活において、IKEAの商品がどのように位置づけられているのか、私たちには分からない。はっきりイメージできるのは、おそらく日本人がこれらを後生大事にすることはまずない、と言うことだ。耐久性に乏しく、補修の難しい家具や雑貨は、値段相応の扱いを受けて短期間で使い捨てられるのだろう。

港北インターチェンジへと向かう車で、後ろを振り返って少しぞっとした。
夕闇に浮かぶIKEAの偉容が、まるでゴミ集積場のように思えたのだ。

IKEA港北
イケア(Wikipedia)

2007年12月21日 09:00 | trackbacks (0) | comments (6)

都市とデザインと : French-French-East 6th

12/8。ウヱハラ先生のルーテシア号で『French-French-East』へ。2004年から尼崎(兵庫)、南町田(東京)などで開催されているフランス車のミーティング。関東での開催はこれが6回目とのこと。会場はカルフール南町田店の屋上駐車場。

クルマについては運転が全く出来ない上に知識も乏しい私たちだが、乗せてもらったり眺めたりするのは大好きだ。とりわけフランス車特有の(どことなく歪んだ)モダニズムと先進性には心惹かれるものがある。とは言え、フランス車オーナーでもないのにこうしたミーティングを覗かせてもらうのは少々恐縮なわけで、どちらかと言うとこの日はルーテシア号でのドライブを楽しみに、とりあえず遠巻きに見ているつもりだった。しかし、続々と集結する珍車の群れをいざ目の前にすると、当初の奥ゆかしい思惑はものの見事に忘却の彼方へ。カメラを手に、小躍り気味に会場をぐるぐる歩き回ること3時間弱。いやはや、すっかり楽しんだ。

071208_frenchfrench_velsatis01.jpg

上の写真はルノー・ヴェルサティス。日本には正規輸入の無い大型高級車。ヘッドライトまわりの複雑な面処理と大味なグリルの意匠が一種独特な面構えをつくり出している。特に素晴らしいのが質感高く趣味の良いインテリア。鯨が口を半開きにしたようなダッシュボードの造形は極めて印象的だ。
その他の写真:1 / 2

以下、めぼしい物件をつらつらと。

071208_frenchfrench_ds01.jpg

世にも見目麗しいシトロエンDS。
その他の写真:1 / 2

071208_frenchfrench_sm01.jpg

エグいスタイルにマセラティ製エンジン、シトロエンSM。
その他の写真:1 / 2

071208_frenchfrench_gsa01.jpg

質素なハイドロニューマチック、シトロエンGSA Pallas。いい色。
その他の写真

071208_frenchfrench_cx01.jpg

ぬーぼーとした得体の知れないボリューム感、シトロエンCX。改めて見ると現行モデルのC6とのディテールや雰囲気の共通性が興味深い。CX Prestigeも見ることができた。
その他の写真

2007年12月19日 01:00 | trackbacks (0) | comments (4)

珈琲の美味しい店 : 表参道・蔦珈琲店

11/30。倉俣史朗展を見てから骨董通りの裏を青山通り方面へ。『蔦珈琲店』で一休み。山田守自邸(1959)のピロティ部分に設けられた自家焙煎珈琲店。開業年は不明。

071130_aoyamatsutacoffee.jpg

鬱蒼と蔦の絡まった煉瓦造の塀が平行にふたつ。その間をアプローチとして、『蔦珈琲店』のエントランスは少し奥まったところにある。そこは裏通りのさらに裏側だ。見上げると開放的な立面と薄いスラブ、角アールの意匠が印象的な3階建てだが、その偉容は狭い通りを普通に歩いている限りではほとんど目に入らない。

木製のドアを開けて店内へ入ると、左手にカウンター、右手にはラウンジチェアがそれぞれ4つ据えられたガラスのローテーブルがふたつ。ここは温和でおしゃべりなマスターとの会話を楽しみに来る常連客の多い店なので、私たちはいつも奥寄りのテーブルに落ち着くことにしている。その右脇は大きなガラス面。向こうに小振りな庭園がひろがる。こんもりした盛り土のまわりをいい具合にワイルドな草木が囲み、間近に大きな紅葉、向こうにはこれまた立派な桜。そこに繰り広げられる季節の縮図は、都心ではなかなか目にする機会の無いものだ。たまにしか訪れないにもかかわらず、この眺めを共有させていただけるのは大変有り難い。

コーヒーとデミタスを注文。目の覚めるような鮮やかさは無いが、香ばしくまろやか。美味い。この日は頼まなかったが、珈琲とチーズのセットはこの店ならではのメニュー。デミタスとチーズの組み合わせに感動したのは東京に住みはじめたばかりの10年ほど前のことだ。おかげでカフェブームにはほとんど目もくれず、好んで自家焙煎珈琲店に足を運ぶようになった。

苺のショートケーキも付けていただいた。これまたシンプルかつ味わい深い逸品。夕刻には品切れになることも多いが、この店はデザート類も素晴らしい。

帰り際、お釣りの小銭をいただく時に「これで土地でも買って」とマスター。近頃とんと聞かないようなジョークに思わず吹き出した。しかしこういう時にすかさず、さらに下らないジョークを返せるようでないと真に都会人とは言えないな、とつくづく思う。

蔦珈琲店/東京都港区南青山5-11-20/03-3498-6888
10:00-22:00(土祝12:00-20:00)/日休

建築家山田守研究所

2007年12月18日 04:00 | trackbacks (0) | comments (0)

身体と空間の芸術, 都市とデザインと : 展覧会行脚のメモ 2007年11月・2

11/24。自由が丘『alternative』でランチの後、六本木へ移動。オオタファインアーツで『見附正康展』を見た。見附氏は1975年生まれの九谷焼の作家。現在「赤絵細描」の第一人者である福島武山氏(その作品と動画は必見)に師事し、石川県で活動している。「赤絵細描」は中国明代の赤絵金襴手を手本に金沢で発達した色絵のテクニック。
展示されていたのは大皿4点、蓋物2点、花瓶1点。シンプルなフォルムの器に描かれたパターンの細密さはあまりに凄まじく、じっと目を凝らさないとフォーカスが合わないほど。描かれているのは瓔珞(ようらく/古代インドの装身具をパターン化したもの)や七宝(しっぽう/円を重ねて繋いでいく仏教由来の吉祥文)と言った一般的な古文様だが、それらが同心円上に綺麗に配置された様は和風と言うよりむしろエキゾチック。異様なまでの細密さが、ある種呪術的な雰囲気を醸し出す。これまでに体験したことの無い感覚に、思わず息を呑んだ。

同日、銀座へ移動してMEGUMI OGITA GALLERYで『中村ケンゴ ”スピーチバルーン・イン・ザ・ビーナスと21世紀のダンス”』を見た。作品についての詳しい解説はこちら。マットな質感の中にやわらかな奥行きと光沢を秘めた画面(「近代の日本画」の技法で描かれている)が、ほぼモノトーンに近い配色によって力強く引き立つ。特に『21世紀のダンス』のシリーズは、マティスの絵画をサンプリング・再構成した結果、自然物モチーフのパターン(例えばトード・ボーンチェなど)を思わせるファッショナブルさと、暗くシニカルな批評性を同時に獲得しているのが興味深い。
シリーズ中にはダンサーが黒で描かれたものと、白で描かれたものの二通りがある。個人的に、そのミステリアスさに心惹かれるのはやはり「黒」の方だが、明るさを装った「白」の方がコンセプト的にはより捩れている。どちらも魅力的だ。

071130_kuramataexhibition.jpg

11/30。打合せからの帰りに青山のCLEAR GALLERYで『倉俣史朗 Liberated Zone』を見た。倉俣のデザインした家具・プロダクト作品のうち、アクリルとガラスを主素材とする代表作が8点余り展示されている。私たちにはどの作品とも10年以上ぶりの再会だ。以前ならその存在感に圧倒されるばかりで、まったく目に入らなかったアクリルの継目や金物の溶接箇所を、今では冷静に見ることができる。当時持てる知恵と技術の粋を凝らした倉俣と制作者の共同を物語るそうしたディテールの囁き声に、私たちはそっと耳を傾けた。
展示作品中、その洗練性において際立っていたのが『Glass Chair』(硝子の椅子/1976/三保谷硝子製作)と『Luminous Chair』(光の椅子/1969/イシマル製作)だった。とりわけ『Glass Chair』のもつ非現実性は、現物を目の当たりにしない限り、まず実感することはできないものだ。倉俣の作品について語られる場合、そこに込められた夢とポエジーに主眼が置かれることが多い。しかし椅子や家具という概念に対するパロディとしてあまりに完璧な『Glass Chair』のデザインは、甘いロマンチシズムの彼岸にあると言っていい。『Glass Chair』のとなりに佇む『Miss Blanche』(ミス・ブランチ/1988/イシマル製作)は、なんだか少々申しわけなさそうで微笑ましかった。
『Miss Blanche』を除き、全ての作品はギャラリーで購入することができる。家具類にはおおよそ数十万円から数百万円の値が付いていた。今はとてもじゃないが、『Glass Chair』と『Luminous Chair』はいつか何とかして手に入れたいものだ。まずはどこにどうやって置くかが問題だな。

工芸とデザインと現代美術。もはやぼんやりと霞んでしまったその境界を、行き歩いたような3つの展覧会だった。

2007年12月11日 06:00 | trackbacks (0) | comments (0)

身体と空間の芸術, 都市とデザインと : 展覧会行脚のメモ 2007年11月・1

11/3。『Noi Shigemasa Exhibition ~The glass~』を見にリスン青山へ。心の師匠・野井成正さんデザインの新作インセンスホルダー(香立)の展示。通常はこの店の主要な商品展示台として使われているガラスのカウンターの上の半分近くが、この日はガラスのインセンスホルダーで埋まっていた。スタッフの方いわく、それでもイベントが始まった頃よりは少なくなったとのこと。すでにけっこう売れてしまったのだ。

071125_noishigemasaglass.jpg

買ったのは新作インセンスホルダーの大中小三種類のうち中(直径95mmくらい)と小(直径65mmくらい)。ガラスの台に真鍮製のリングが嵌り、スティック香が立てられるようになっている。ぽってりとした手作りガラスのフォルムは今にもはじけそうな水滴を思わせる。あるいは桜あんパンみたいでもある。やわらかで無駄の無い造形、涼しげな質感、ずっしりとした重み。一見すると意外だが、じっくりと味わえばたしかに、これもまた紛れも無い野井デザインだ。

11/16。『鳥獣戯画がやってきた! - 国宝「鳥獣人物戯画絵巻」の全貌』を見にサントリー美術館へ。甲乙丙丁の4巻(鳥獣戯画として一般に馴染み深いのは甲巻)全てに加え、作画・由来的に関連性のある種々の作品を集めて展示する内容。昔の教科書だと鳥獣戯画は鳥羽僧正の作とあったが、実物を見ると甲乙巻、丙巻、丁巻で作者が異なることは素人目にも明らかで、クオリティ的にも雲泥の開きがある。特に甲巻は後年になってかなりの部分が継ぎ接ぎされており、もとはその一部だったものが切り取られて別の掛軸になっていたりもする。断簡と呼ばれるそうした部分や写し、模本などを手がかりに甲巻の原型について考察する展示は、難解ではあるがその分じっくりと楽しめるものとなっている。
それにしても、玉石含めて模造品には事欠かない甲巻だが、オリジナルの迫力は本当に凄い。迷い無く、生命感溢れる筆致で描かれた線画のキャラクターたちにすっかり心を奪われてしまった。とにかく凶悪なまでに可愛らしく、繊細で、完成度が高いのだ。現在は展示替えで各巻の後半部分を見ることができるようになっている模様。もう一度見に行かなくちゃ。

それから『佐藤卓ディレクション「water」』を見に21_21 DESIGN SIGHTへ。水にまつわる様々なインスタレーション、立体、平面作品が全部で38種。食材の製造に要する水の量を示す『見えない水の発券機』(竹村真一佐藤卓)、超撥水コーティングのステージに水滴が踊る『鹿威し』(原研哉)などが印象に残った。それぞれにスケールを置き換えた『猫の傘』と『ねずみの水滴』(佐藤卓)もチャーミングなインスタレーション。シンプルだが、リアリティのある作り込みにはっとさせられる。

ミッドタウンでもうひとつ。『とらや』に立ち寄ったところ、店内のギャラリーで『寿ぎのかたち展』が開催中。伝統的な折形、水引とその製作過程にまつわる展示に加え、オリジナル商品も見ることができた。田中七郎商店による水引の造形は実に優美なもの。伝統的折形の雛形に見られる工夫と、そのバリエーションの豊富さには驚いた。折形デザイン研究所、田中七郎商店、とらやの協同によるぽち袋を後で購入しようと思ったが、上のふたつの展覧会を見ている間にすっかり忘れていた。こちらも要再訪。

さらに同日、自由が丘に移動してバスで深沢不動前へ。天童木工PLYで『柳宗理 家具展 2007』を見た。現在新品として購入可能な柳デザインの家具を一覧することのできる内容。特にあまり出会う機会の無いダイニングテーブルを、スタッフの方からご説明をいただきながらじっくり見ることができたのは有り難かった。強度と機能の両立のために考え抜かれた天板裏の構造と、面取りの手法に思わず唸る。また、今年初めに東京都近代美術館の展覧会『柳宗理 生活のなかのデザイン』で見た『デスク』(1997)が新作の『Yanagi Desk』(白崎木工製)として販売されていた。鋭角的でソリッドなフォルムと重厚な無垢材の質感は柳デザインの家具には珍しい。こちらも興味深く拝見した。

071119_yanagikameguruma02.jpg

Tendo Classicsのカタログと『亀車』(1965/全長12cmほど/別アングルの写真)を購入。宮城県鳴子の木地こけしの老舗『高亀』のために柳氏がデザインしたもの。箱が無かったのは残念だが、入手できたのは幸運。ろくろ引きの手法を生かした見事な造形。キモ可愛い。

2007年12月05日 03:00 | trackbacks (0) | comments (0)

暮らしの道具たち : 稲荷町・宮川刷毛ブラシ製作所

11/14。近所で生活物資調達の途中、『宮川刷毛ブラシ製作所』に立ち寄った。江戸刷毛の技能をベースに様々なブラシを製作し、販売も行う「現代の名工」の店。場所は地下鉄稲荷町駅そばの浅草通り沿い。

二間半ほどの間口のガラス張りの店構えを通して、中の様子は通りからもよく見える。左右の壁には商品の刷毛やブラシがずらり。フロアの右手から奥にかけての板間には作業台が置かれており、工具やパーツが散らばっているところを見ると、日常的に実演販売が行われているようだ。この時はたまたま店先に誰も居ない様子だったが、営業中ではあるようなので自動ドアからお邪魔すると、ピンポーンと呼び鈴が鳴って、左手の暖簾から職人の宮川ツヤ子氏が出て来て下さった。
ボディブラシを拝見したい旨をお伝えしたところ、紙箱を示し「今はこれだけですが」とのこと。ひとつひとつ取り出していただきつつ説明を伺った。「これだけ」とは仰るが、サイズと形状だけで5種類、木部やブラシの材質にもバリエーションがあり、それぞれ微妙につくりも違う。さらにはフルオーダーでの製作にも対応いただけるとのこと。なるほど、これが手作りってことなんだな、と感慨を覚えた。

071114_miyagawabrush01.jpg

中柄(30cm)でブラシが柔らかめのタイプを購入(裏側の写真)。直線的な形状とシンプルな面取。なかなかの男前だ。みっちりと詰まったブラシの肌触りは、機械製の市販品にはまず望めないもの。これが実に具合がいい。

宮川刷毛ブラシ製作所/東京都台東区元浅草2-10‐14
03-3844-5025/Weblog

今度はぜひコレ買おう。

2007年12月01日 17:00 | trackbacks (0) | comments (0)
back|mail
copyright