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life of "love the life"

オルタナ系日本茶 : 静岡/藤枝・マルミヤ製茶

煎茶のなかでもごく限られた量しか流通していない品種・産地別ストレート煎茶に興味をそそられる機会があり、ごく最近になって情報を集めはじめた。

現在日本で生産されている緑茶葉の多くは「やぶきた」と言う品種の茶木から採られているのだそうだ。「やぶきた」は気候の変動や病虫害に強く、戦後大いに普及した。ただし茶葉としての味は、さほど悪くもないが決して良くはない、と言った程度のものらしい。一般的なルートで入手のできる煎茶葉はほぼ100%が極端な深蒸しなどの製法によって玉露っぽい風味と鮮やかな緑色を付加された「やぶきた」だ。他にも良い品種はいくつもあるし、今後の研究開発の余地も大いにあるわけだが、残念ながら私たち一般消費者に選択権は無いに等しい。なにしろ「やぶきた」以外の茶木は、日本の茶畑にはもうほとんど植わっていないのだから。
そんなわけで、中国茶や紅茶ではごく当たり前に行われている品種や産地ごとのストレート茶の販売が、緑茶では不可能に近い。嗜好品としての緑茶はすっかり壊滅状態にあると言っていいが、ペットボトル緑茶や健康食品としてのパウダー緑茶の需要によって、近年緑茶の生産量そのものは増加傾向にある。なんとも皮肉なものだ。

国内のほんの一部の農家で栽培され、ほんの一部の茶商のみで細々と売られている「やぶきた」以外の茶葉による緑茶は「品種茶」などと呼称される。また、品種の整理が行われる以前から栽培されていた(あるいは自生していた)各地の茶木は「在来種」と呼ばれ、それを原料とする緑茶もほんのわずかながら存在する。

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上の写真は静岡県藤枝市のマルミヤ製茶の煎茶商品の一部。左から『藤枝かおり』の釜炒茶(50g)、『おくむさし』(50g)、『在来』の釜炒茶(50g)。少量の購入で恐縮ではあったが、ウェブとメールで迅速に対応していただき安心した。

『藤枝かおり』は1996年に品種登録された「ふじかおり」(「印度雑種131号」と「やぶきた」の交配種)のストレート茶。釜炒りは古くからある煎茶の製法で、蒸し製が主流の現在ではどの産地でもほとんど行われていない。急須にお湯を注いだ途端、ふわりとやわらかく、かつ濃厚な香りがひろがる。とろけるように一体となる豊かな甘味と爽やかな渋味。パンチ力抜群。
『おくむさし』は「さやまみどり」と「やまとみどり」の交配種「おくむさし」(もとは埼玉県で育成された品種)によるストレート茶。こちらは蒸し製と思われる。香気のインパクトは『藤枝かおり』ほどではないが、爽やかで強い。風味はより複雑で奥深く、かすかに果実を思わせるような清涼さがある。
『在来』は藤枝の在来種によるお茶。釜炒り製。香気は弱いが、風味の強さは『藤枝かおり』に匹敵し、豊かな甘味はそれを上回る。

と、我ながらボキャブラリーが貧困だとは思うのだが、遅ればせながら煎茶に開眼させていただくには、どれも十分過ぎるくらいに素晴らしいお茶だった。品種の違いのみならず、一煎めと二煎めでの明確な風味の違いもまた面白く、煎茶ならではのものだ。

有り得べき品種・産地別ストレート煎茶。こいつはどうやら相当に楽しいぞ。

マルミヤ製茶

2007年11月27日 23:00 | trackbacks (0) | comments (0)

都市とデザインと : 表参道・LOUIS VUITTONのディスプレイ

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11/3。ルイ・ヴィトン表参道店前にて。ともすれば素人くさいインスタレーションになってしまいがちなシンプルなアイデアがそうならなかったのは、そのディテールゆえ。照明器具はおそらくオリジナルだろう。蛍光管の配線や支持部の処理のスマートさが印象に残っている。

ルイ・ヴィトン表参道ビル07年9月(JDN/東京ショーウィンドー)

2007年11月27日 19:00 | trackbacks (0) | comments (0)

ちょっといい風景 : 新御徒町・深山東京本社ビル

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10/18。近所の春日通り沿いにて。紙の販売会社・深山の東京本社ビル棟屋。好天のもと、新御徒町の駅へ向かう途中でいつも見上げる「紙」のロゴが、この日は一際カッコ良かった。いかにもさりげないが、いい仕事。どなたがデザインなさったのだろう。

2007年11月25日 19:30 | trackbacks (0) | comments (0)

食べたり飲んだり : 神保町・さぼうる

10/16。南洋堂書店とKANDADAで展覧会を見た後、神保町の地下鉄駅出入口そばにある『さぼうる』へ。言わずと知れた老舗にして界隈を象徴する喫茶&パブだが、立ち寄ったのはこの日が初めて。創業は1955年。靖国通りとすずらん通りの間にある路地に面して立つトーテムポールと山小屋風の外観(すごい取り合わせだな)が目印。

ドアを開けて玉暖簾をくぐると右手にカウンター。正面手前に細い階段があり、フロアは地上と半地下とに分かれる。

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上の写真は半地下席の様子。内装もまた木造煉瓦張りの山小屋風。この日は比較的空いていたせいか、煙草の煙はさほど気にならなかった。座席の配置とその詰まり具合は実に見事なもの。天井の低さといい、なぜか悪い気がせず、かえって落ち着いた気分にさえなるのが不思議だ。どこに座っても手の届きそうな距離にある壁や柱、天井は積年の落書きで覆いつくされている。客層は年齢、風貌ともに幅広い。

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コーヒーとジャムトーストを注文。見た目、味ともに申し分無い昭和喫茶仕様。満足。

会計を済ませて店を出ようとすると、マスターと思しい老齢の男性がさっとドアを開け、歯切れ良い挨拶で送り出して下さった。同じ店を同じ場所で、半世紀を超える年月のあいだ続けて来た人物だ。その姿は颯爽として、思わずはっとするくらいに格好良かった。

次はぜひナポリタンをいただいてみよう。

さぼうる/東京都千代田区神田神保町1−11/03-3291-8404
9:00-23-00(LO22:30)/日休

2007年11月25日 19:00 | trackbacks (1) | comments (0)

身体と空間の芸術, 都市とデザインと : 展覧会行脚のメモ 2007年10月

10/16。午後過ぎから出光美術館の『没後170年記念 仙厓・センガイ・SENGAI 禅画にあそぶ』へ。仙厓(1750-1837)は日本最初の禅寺・博多の聖福寺の住職として1800年前後の再興に務めた禅僧。宗教者としての業績だけでなく書画においても優れた人物だったが、ある時期(1810年前後と言われる)を境に細密画を描かなくなり、以後「うまへた」な水墨作品を描き続けた。その過激なまでの脱力具合、禅を極めた境地から発せられる破壊的な賛文は、簡単に「ユーモラス」などと言えるような代物ではない。『一円相画賛』などはその最たるものだろう(「これくふて茶のめ」って。。。)。展覧会では出光美術館の有する日本最大のコレクションを通して仙厓の作品と生涯が網羅的に紹介されており、そのボリュームたるや大変なものだった。図録は『指月布袋画賛』や『○△□』が見開きでまっぷたつに掲載されていたのが残念。

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神保町へ移動して南洋堂書店の『菊地宏展 - 光の到達するところ』へ。菊地宏氏の手がけたリノベーション(2007年8月完成)によって、建物(1980年築/土岐新設計)は通りに対してずいぶんと開放的になり、客動線は整理されていた。4Fのギャラリースペース『N+』での展示は合板やコンクリートを用いた模型を中心とする内容。アーシーな質感が印象的。小さなモニターでループしていた各作品の紹介映像には工事中の風景が多く含まれていた。カオティックな現場に少ない手数で端正な表情が与えられてゆく様は興味深い。中でも『LUZ STORE』は現存しているうちにぜひ見ておきたかった作品。『毎週住宅を作る会』を見ていた頃はこんなに力強い作風の建築家になる人だとは予想していなかった。月日は人を変えるのだ。翻って見ると、ウチは当時からあまり変化も成長もしていないような。いかんなあ。

竹橋方面へ移動してKANDADAの『伊藤敦個展「"777"」』へ。パチンコにまつわる様々な社会的、あるいは個人的な事情を、批判するでも肯定するでもなく、端的に示す作品の数々。インスタレーションや立体、映像によるその乾き切った表現は時に痛々しく、時に生々しい。廃棄されたパチンコ台のパーツをそのまま簡潔に再構成したシリーズ『"777" - Flower - 』では、その過剰な造形とイルミネーションに息を呑んだ。脇のプラズマモニターから流れる地方のパチンコホールの映像へと目をやると、空間を覆いつくす凄まじいまでのアイコンの羅列に思わず目眩を覚える。パチンコホールは現代日本におけるウルトラバロックなのだ。彫刻作品『"777" - Home - 』はパチンコホールのちいさな模型。エントランスの脇にぽつんと置かれた姿は妙に懐かしく、郷愁に似た感覚を誘うものだった。

10/24。松屋のデザインコレクションで『alternative』のための資材調達をした際に、デザインギャラリーで開催中だった『PHランプと北欧のあかり』を見た。PHランプの開発過程とそのバリエーション展開を概観する内容は、個人的にはこれまでほとんどまとめて見たことのなかったもので、大変勉強になった。配布されていた資料に掲載されていたポール・ヘニングセンの言葉はなかなか辛辣で興味深い。以下引用。
「夜を昼に変えることなど不可能だ。わたしたちは24時間周期のリズムで生きており、人間は爽やかな昼の光から暖かみのある夕暮れへの移ろいに、ゆっくりと順応するようにできているのだ。家庭での人工照明は、言うなれば、黄昏どきの光の状態と調和すべきであり、それは、黄昏特有の暖かみのある色の光を使うことによって実現可能だ。夕刻、ほかの部屋にはまだ薄明かりが残っているような時間に、冷たい蛍光灯がリビングルームで煌々と光っていては不自然だ。そして、強烈な光は目をくらませ、物の色は正しく再現されず、自然な陰影は生まれない。」

さらに同フロアの画廊で開催されていた『寺本守 銀彩展』へ。まったくのノーチェックでふらりと訪れたが、これが素晴らしかった。線描の上絵付に銀箔・銀泥を施してから掻き落とし、低火度で焼きつける手法で作られた陶芸作品のシリーズ。深みのある表情とクールな佇まい。思わず衝動買いしそうになったが、なんとか思いとどまった。今度出会った時のために貯金しとこう。

2007年11月23日 20:00 | trackbacks (0) | comments (0)

update info, 仕事してるんです : alternative・完成写真アップ

love the lifeの作品「Alternative」のページを更新しました(Aug. 18, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。

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「オルタナティブ」は自由が丘の外れの低層ビルの2Fにあった。「和食」を「日本人が発想する料理」と再解釈し、創作されたユニークな料理を楽しむことができる店だ。周辺の住宅地の合間には高級スーパーや家具店、パティスリーなどが点在し、ブランド化された街の北のエッジが形成されている。

工事の始まる前に特に印象的だったのは、南東角のサンルームに頭上から差し込む穏やかな自然光だった。通りに面した開口部はほとんど無い。私たちはこのプールの底のような場所を手がかりに、近隣の浮ついた雰囲気から切り離された特別な場所をデザインできるかもしれないと考えた。琳派による水流の表現、あるいは絵巻の場面転換に用いられる霞のようなものがぼんやりと頭に浮かんだ。それらはおそらく金地銀地の鈍い光に包まれた「濃密な余白」のイメージだったように思う。

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フロアはその中央にある50cmほどの段差で二分されていた。私たちは片側にレセプションとキッチンを、もう片側に客席を単純に割り当て、さらに客席をタペストリー加工の強化ガラスで曖昧に分節した。ベンチシートの上部には間接照明を施し、客席全体を鍵型に包む光の面を構成した。動線上には緩やかなカーブを描くステンレスパイプをいくつか配置した。階段状のディスプレイ台を持つレセプションカウンターにはひと塊の黒いボリュームを与え、茶釜やレジスターなどの機能を埋め込んだ。これらの造形には光琳の「松島図屏風」の波間と岩場のイメージが引用されている。

WavesAtMatsushima
Waves at Matsushima | Ogata Kôrin (Museum of Fine Arts, Boston)

2007年11月20日 14:00 | trackbacks (0) | comments (2)

落語初心者のメモ : 落語初心者のメモ 2007年10月

10/11。イイノホールで『三遊亭白鳥 柳家喬太郎 二人会 デンジャラス&ミステリアス』。客席を見回したところ、いつもの落語会よりも平均年齢が20才くらい若いような気がした。それでもせいぜい40才くらいだが。18:30開演の落語会を平日に見に来れるダメ人間が同年代にこんなに大勢居るとは実に心強い。
お二人でのトークに続いて、喬太郎師匠の『午後の保健室』。お得意の誇張・デフォルメされたキャラクターの立ち具合、それのみで根多を成立させてしまう。極めてシンプル。これはもう喬太郎師匠以外の人には出来ない力技だ。強力なオヤジキャラを与えられた中学生の繰り出すギャグが吹雪のように吹き荒れ、ねじれた笑いが爆発する。
そして白鳥師匠の『サーカス小象』。白鳥師匠の高座を見るのはこの日が初めて。アニメや漫画のストーリー設定をもじりつつ細かなギャグをてんこ盛りにしたウケる世代の限定されそうな根多。少々詰め込み過ぎのきらいはあったが、その後2週間近く語尾に「…だぞ〜う」を付けるのが我家で流行するくらいに洗脳されてしまった。
仲入を挟んで再び白鳥師匠の『アジアそば』。蕎麦が食べたい客とインド人とのまるで噛み合ない会話にスパイシーなギャグが散りばめられる。内容は現代的、その実、構造的には完璧なる古典落語。馬鹿馬鹿しく、短い根多だが素晴らしく気が利いている。粋だ。
最後は喬太郎師匠の『ハワイの雪』。仕込(落語前半の根多設定の説明となる部分)を間違えるなどのトラブルがあり、星のホールで見た時ほどの締まりはなかったが、やはりいい根多。

10/23。深川江戸資料館小劇場で『入門30周年記念 桂小春團治独演会』。天井が高く、綺麗で立派なホール。
先日渋谷繁昌亭で拝見し、上方にもこんなに凄い新作をやる人が!と驚いて、すぐにこの日のチケットを取った。開口一番、笑福亭呂竹にさん続いて小春團治師匠の『冷蔵庫哀詩』。桂春雨師匠の『稽古屋』と来て再び小春團治師匠の『職業病』。仲入を挟んで小春團治師匠のヴィジュアル落語『漢字悪い人々』。
冷蔵庫の中、ファミリーレストランの中と、極めて限られた空間を舞台としながら、そこにバラエティ豊かなキャラクターをこれでもかと盛り込んで、全てを破綻無く演じ分けてしまう小春團治師匠の話術は実に幻惑的だ。『冷蔵庫哀詩』に至ってはプッチンプリンを主人公にしながら微妙に人情話のテイストまで含むのだから信じ難い。『職業病』では元葬儀屋のウェイターの緻密な描写に感心しつつ爆笑。『漢字悪い人々』はプロジェクターを使用し、小春團治師匠自らPCを操作しながらの高座。ロードオブザリングとスターウォーズをごっちゃにしたようなストーリーの舞台となるのは擬人化された文字の世界。一体スケールが大きいんだか小さいんだか。おもちゃ箱の中を鮮明な広角レンズ越しに覗くような、不思議な世界観を堪能させていただいた。東京ではまだ知名度が低いのか、客席の入りが2/3程だったのがなんとも惜しい。今後要チェック。

10/28。歌舞伎座で『第一回落語大秘演会 伊藤園 鶴瓶のらくだ』。
以下はまだ公演中につきネタバレを含むため続きへ。

2007年11月16日 08:00 | trackbacks (0) | comments (0)

落語初心者のメモ : 落語初心者のメモ 2007年9月

9/7。練馬文化センターで『市馬・喬太郎 ふたりのビッグショー』。
開口一番、柳亭市朗さんに続いて寒空はだか師匠の登場。師匠のステージを見るのはこれが初めて。歌と物真似を織り交ぜた素敵に下らないネタのオンパレード。客席との距離の置き方が絶妙で、思わずぐんぐんと引き込まれてしまう。さすがにあの浅草東洋館を湧かせる芸人さん。テレビの一発屋とはわけが違う。と言いつつ東洋館には行ったことがないんだが。
そしていよいよ柳亭市馬師匠の『お化け長屋』。4月の花緑まつり以来なかなか拝見する機会がなく、じっくりと聞けるのを楽しみにしていた。素晴らしく豊かな声色と声量。根多の後半に威勢のいい間借り人が登場すると、ハイテンションな言葉遣いがなんとも小気味良い。流麗にしてカラフル。江戸落語の楽しさを満喫。
仲入を挟んでの演目はなんと市馬・喬太郎師匠による歌謡漫才。アニマル亭 馬夫・豚夫の登場。市馬師匠のフリフリタキシード、喬太郎師匠の眼鏡にダークスーツ姿は、ビジュアルのみでもう爆笑。西武池袋線の駅名に無理矢理因んだ市馬師匠の歌の数々が馬鹿馬鹿しくも可笑しい。続いては昔昔亭桃太郎師匠のトーク。ご自宅が近いからお呼びがかかった、なんてことも含め、相変わらずどこまでがウソかホントか分からない話題の連続で会場を煙に巻きつつ大いに湧かせる。
最後は柳家喬太郎師匠の『彫師マリリン』。誇張、デフォルメされたギャルキャラと職人気質の掘駒師匠の鮮やか過ぎる対比。喬太郎師匠の新作ならではの見事な風刺、演技力と構成力を堪能させていただいた。

9/9。内幸町ホールで『落語家生活三〇周年 雀々十八番』最終日の昼の部と夜の部通し。
昼の部の開口一番は桂雀喜さん。続いて桂雀々師匠『がまの油』、林家たい平師匠『明烏(あけがらす)』、雀々師匠『仔猫』。仲入を挟んで雀々師匠『疝気の虫』。
夜の部の開口一番は桂都んぼさん。続いて雀々師匠『子ほめ』、春風亭昇太師匠『おやじの王国』、雀々師匠『夢八(夢見の八兵衛)』。仲入を挟んで雀々師匠『愛宕山』。
少々大人しい印象を受けた大銀座落語祭での高座とは打って変わって、この日の雀々師匠はとにかくハイスピードでハイテンション。よどみなく繰り出される大阪言葉の迫力が圧倒的。しつこいリフレインが次第にエスカレートして、爆発的な笑いへと膨らんで行く様はまさにスペクタクル。
どの根多も甲乙つけ難いが、強いて挙げれば下げの鮮やかさとファンタジックな展開の際立つ『仔猫』と『夢八』が秀逸。また『愛宕山』の荒唐無稽さと異様な勢いはほとんど狂気の沙汰とも思える凄まじさだった。おそらく、雀々師匠は枝雀落語を消化すると同時に、独自の爆笑スタイルを確立することに成功したのだ。

9/21。川崎市麻生市民館で『桂三枝独演会』。演目は桂三段さん『憧れのカントリーライフ』、続いて桂三枝師匠『宿題』。仲入を挟んで桂三歩師匠『青い瞳をした会長さん』、最後は三枝師匠『誕生日』。全て三枝師匠の創作落語。
『青い瞳をした会長さん』は三歩師匠のキャラクターにぴったりのナンセンスな根多。三枝師匠の『宿題』は昨年4月のよみうりホールで一度聞いたが、分かっていてもやはりお腹のよじれる傑作。『誕生日』を聞くのはこの日が初めて。現代的でつつましやかな米寿祝い。爆笑の中にもほっと心温まる下げが見事。絶滅寸前の家族愛を滋味深く描く素敵な根多。会場を出て、電車に乗る頃になってふいにじんと来た。

9/26、27。渋谷セルリアンタワー東急ホテルボールルームで『第三回 大・上方落語祭 渋谷繁昌亭』夜の部を二日続けて。
26日は開口一番、桂しん吉さんに続いて笑福亭三喬師匠『おごろもち盗人』、笑福亭仁智師匠『スタディーベースボール』、桂ざこば師匠『青菜』。仲入を挟んで桂きん枝師匠『親子酒』、林家染丸師匠『寝床浄瑠璃』。
この日最も印象深かったのは三喬師匠。間の抜けた夫婦の会話やコロコロ態度を変える盗人の様子が、流れるような大阪言葉で描写される。瑞々しく映像的な上方落語。ざこば師匠の『青菜』は涙もろい庭師のキャラクターが可笑しい。染丸師匠得意の華やかで滑稽な芝居噺も実に見事なものだった。
27日は開口一番、桂市之輔さんに続いて桂小春團治師匠『さわやか侍』、笑福亭松喬師匠『へっつい幽霊』、桂春団治師匠『野崎詣り』。仲入を挟んで笑福亭鶴光師匠『西行鼓ヶ滝』、桂三枝師匠『悲惨な夏』。
この日の内容はまた一段と濃厚だった。『さわやか侍』は小佐田定雄氏の新作で時代劇仕立てのナンセンスな根多。膨大な登場人物を全く違和感無く演じ分けながら爆笑を誘う小春團治師匠の話芸に舌を巻く。この根多は果たして小春團治師匠以外の人に出来るのだろうか?一転して松喬師匠はスタンダードな古典根多。これがまた凄かった。道具屋、熊五郎、銀ちゃんと言った各登場人物が、言葉使いはもちろんのこと、その表情や仕草などのディテールに至るまで実に緻密に、まるで別人のように生き生きと描かれる。時にはんなりと、時に豪快に聞かせる大阪言葉が魅力的で、すっかりファンになってしまった。ぜひこの人の『らくだ』を見てみたい。大阪言葉の魅力、と言う点では春団治師匠の『野崎詣り』もまた見事と言うより他は無い。何年か大阪に住んだことのある私たちにとっても聞き慣れない言い回しが何度も登場したが、その響きは美しく、楽しく、なんともカッコいい。1930年生まれの春団治師匠のお元気な姿を東京に居ながらにして拝見することが出来るとは幸せだ。
立て続けの至芸と仲入の後に登場した鶴光師匠だったが、その高座は一切霞むことの無い鮮やかさだった。西行の短歌という古めかしいにもほどかあるような題材を用いながら、鶴光師匠らしい駄洒落やキツいジョークを織り交ぜて、爆笑落語に仕立ててしまう力技。恐れ入りました。

終わってみれば上方落語月間、と言った具合の9月。『雀々十八番』でも『渋谷繁昌亭』でも、おそらくは独特のニュアンスとノリについて行けないのであろう、大方の盛り上がりをよそにキョトンとした様子の方が散見されたことが記憶に残っている。上方の言葉に多少なりとも親しみのあることは私たちにとって非常に幸運なことだと痛感した。一方、三枝師匠の落語はその辺りの障壁を巧みに取り除いてあるような気がするのだが、実際のところどうなのか、興味深いところだ。

2007年11月14日 12:00 | trackbacks (0) | comments (0)

仕事してるんです, 食べたり飲んだり : alternative・初ディナー/写真撮影

11/9。大阪から須賀さんご夫妻が来訪。これは滅多にない機会、とばかりにオープンしたての自由が丘『alternative』へと問答無用でお連れした。ディナーコースをいただくのは私たちも初めて。

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本日の魚介のグリル(上の写真左上)はホタテとイカ。刻んだ梨と一緒にいただく。ドリンクにはプレミアムモルツ生の後、〆張鶴の純米吟醸を4合ボトルで。

コンソメの茶碗蒸し(写真右上)の具はフォアグラ。白いのはカリフラワーのピュレ。本日の魚のお刺身(写真左下)はムツとブリ。絶品。本日の碗物(写真右下)は金目。極めつけに上品な出汁。金目の食感も素晴らしい。

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フランス産鴨胸肉のポワレ(上の写真左上)はまさしくコンテンポラリー鴨葱。お食事(写真右上)は鮭のまぜご飯と原木しめじの味噌汁。どちらもワイルドでインパクトのある品。

本日のデザート(写真左下)はピスタチオのアイスクリーム。コースを通してのボリュームは十二分。食後には香り高い阿里山金宣(写真右下/台湾茶)を何度かお替わりしつつ、ゆっくりと過ごさせていただいた。大満足。

シンプルかつ骨太な味わいの料理は、どれもオーナーシェフ・渡辺さんの人柄を思わせるものだった。特に最初の一皿は、北海道出身である渡辺さんのルーツと、この店のコンセプトである「オルタナティブな日本食」を同時に表明するものとして感慨深い。用いられる器もまた一見してシンプルながらその実ユニークなフォルムを持つものが選ばれており、さりげなく料理を引き立てる。

さて、love the lifeのデザインは少しばかりでも渡辺さんのお役に立てただろうか。その点についてはぜひ実際に訪ねた方のご判断をいただければ幸いだ。12日からはランチコースも始まっているので、まずはどうぞお気軽に。

alternative(オルタナティブ)/東京都目黒区自由が丘 2-3-16-2F
03-3725-6730/12:00-14:00,18:00-23:00(LO21:30)/日祝休

23時前に代官山へ移動。『dcb』へ。いつ来ても心地よく、時間の経つのを忘れる店。久方ぶりの長く楽しい夜となった。

そして、11/10夜に再び『alternative』へ。翌日の朝にかけて完成写真の撮影。

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上の写真は明け方にサンルームを撮影中のフォトグラファー・佐藤振一さん。すでにお疲れの様子。全部を撮り終わった頃には10時を過ぎてしまった。ぐったりと疲れ果てた状態で『アンセーニュ・ダングル』で珈琲の後、解散。

2007年11月13日 07:00 | trackbacks (0) | comments (0)

都市とデザインと : 東京モーターショー2007

11/7。『第40回東京モーターショー 2007』を見に幕張メッセへ。いつもは閉場の2時間ほど前に到着し、荒天に翻弄され、駆け足に疲れ果て、困憊の体でぎゅう詰めの京葉線に揺られながら帰るのだが、今回は珍しく早起きして、天気の良い日を選んで訪れたので気分は上々。展示ブースのデザイン視察に重点を置きつつ、じっくりと会場を巡った。

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今回最も印象に残ったのはメルセデス・ベンツの展示ブース。照明入りのルーバー造作が流れるような曲線を描きながら展示スペースの上空をぐるりと囲う。通路部分の床は全面がグレートーンのシャギーカーペット敷き。こうした展示イベントではほとんど経験したことの無いふわふわした歩行感覚が新鮮だ。
間仕切やカウンターなど、他の造作は床から生えて来たような黒いボリュームとしてデザインされており、グラフィック類はごく控えめ。全体に要素が少なく、落ち着きと一体感のある空間が構成されている。

リサーチカー『F700』の展示エリアでは、プレゼンテーターが曲げアクリルの映像モニターを前に解説を行っていた。モニターには床下からビデオプロジェクターの映像が投影され、その内容は右側壁面の大型モニターと連動する。アクリル板を支えるフレームにはタッチセンサーが仕込まれているようで、素手で画面を操作しながらプレゼンテーションを行っていた(F700プレゼンテーションの様子)。微妙に未来的な演出が『F700』の堅実なコンセプトに良くマッチしているように思う。

その他の写真:全景部分1部分2スマート展示1スマート展示2

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続いて挙げたいのはヤマハ(二輪車)の展示ブース。デザインを特徴づけるのはこれまたルーバーだが、独特の力強い造形感覚によってメルセデス・ベンツのブースとはひと味違う空間が構成されている。床面と展示用ステージの仕上げは共に薄塗モルタルを思わせる質感。軽快さと重厚感、鋭利さと量感の対比が際立つ。

その他の写真:全景ルーバー展示ステージ

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三菱ふそう(商用車)の展示ブースはゲート状の造作の配置による極めてシンプルで大胆な構成。手前の大型観光バスが小さく見えるほどのスケールを持つ無柱の広場は、開放的でありながらまとまりを感じさせる気持ちのよい空間だった。

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アウディの展示ブースは巨大なボリュームを上部に浮かせたデザイン。造作を円筒形にくり抜いた内面に施されたグラフィックと、ダウンライトやスポットライトなどの点光源を主体としたライティングの手法は単純にオーソドックスであると言わざるを得ないが、空間全体の印象としては至って潔く、好感が持てる。

例年見事なデザインを見ることのできるBMW写真)とMINI写真)の展示ブースだが、今回は2005年のデザインをほぼ踏襲したものとなっていた。文字情報を大きくあしらったグラフィックの羅列はどうにも古びて見える。次回に期待。
その他、国内の乗用車メーカーの展示ブースとして、事前情報ではトヨタ写真)と日産写真)も注目を集めていたようだったが、個人的には印象に残らなかった。特に日産の展示ブースに見られる薄っぺらな和風趣味は、2001年、2003年の明快な建築的手法に比べてずいぶん後退してしまったように思えてならない。

国外メーカーが軒並み中国市場へとプロモーションの比重を移してしまった後に行われる初の東京モーターショーは、見終わってみるとやはりいつもに比べて少々華やかさに欠けるものではあった。国内市場の活性化を狙う国内メーカーを除いて、展示ブースは概ねヨーロッパ各地のショーで用いられたデザインを踏襲し、部材を流用したものであるとの話も聞く。
とは言え、極端な大画面映像や、無数のムービングライトなどの「これでもか」的な演出が下火となったことはむしろ喜ばしい。部材の持ち回りについてもヨーロッパのディスプレイデザインを(廉価版とは言え)概ねそのまま見ることができると言う面においては(また環境的見地からも)歓迎すべきかもしれない。展示ブースのデザイントレンドは企業の打ち出すテーマを冷静かつ確実に伝える手法へと移行している。

祝祭は終わり、クルマはその本質的な必要性を問われているようだ。

東京モーターショー

クルマについてはこの続きで。

2007年11月09日 05:00 | trackbacks (0) | comments (2)

仕事してるんです : alternative・オープン前日

11/5。未明にアラタメさんから『alternative』屋外サイン用POPのデータが到着。プリントアウトして台紙に貼り付け、POP用のスタンドと一緒に紙袋に入れて、ひとまず横須賀線とバスを乗り継ぎ鎌倉の別件現場へ。
15時過ぎに資料写真の撮影と現場採寸が完了し、小町通り外れの『cafe vivement dimanche』で食事と珈琲。横須賀線と東横線を乗り継いで自由が丘『alternative』に着いたのは18時頃。

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POPをセッティングしてしまえば、あとは特にすることはなかったが、イカハタ・清原さんが様子を見にくると言うので少し待つ。

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すっかり片付いた店内は、来客を迎えるばかりの状態。テーブルクロスは先日まで敷かれていたリネン素材ではなく、厚手の白いものに交換されていた。おそらくサイズに問題があったのかもしれない。“オルタナ系和食”という前例のない形態のレストランだけに、運営スタイルを確立することは容易ではない。オープン後もしばらくは試行錯誤が続くだろう。

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清原さんが到着し、キッチンを含め一通り店内をチェック。郵便ポストの位置(大家さんのご指定。これが大変使い辛い)、エントランスドアの強風対策(建物に着いていたドアをそのまま使用。強風で若干バタつく)と言った施工とは関係のない共用部分での懸案事項を除けば、あとはほぼ問題無し。キッチンに漂う美味そうな出汁の香りに俄然食欲が湧く。作業途中、お店のスタッフの方に烏龍茶をいただいた。上品な甘味と香りにほっと一息。

翌11/6に自由が丘『alternative』(オルタナティブ)はオープンした。今後は客として訪れることになる私たちとしては、料理はもちろん、店をどう使っていただけるのかを拝見するのもまたひとつの楽しみだ。さて、いつ頃お伺いしようか。

2007年11月07日 04:00 | trackbacks (0) | comments (0)

掲載誌・書籍など : デザインスタンス 新世代のクリエイターと仕事 1

11/1に誠文堂新光社から刊行された書籍『デザインスタンス 新世代のクリエイターと仕事 1 』(文:萩原修/人物写真:uga)にlove the lifeがちょこっと登場しています。見てね。

書籍の内容は1970年前後に生まれた日本在住のクリエイター30組を紹介するもの。雑誌『pen』での連載『クリエーターを探せ。』の記事がそれぞれボリュームアップしてまとめられています。
ギラギラしたスターっぽい人は少なめです。どちらかと言うとプライベートな感覚がそのまま作品に繋がるような、印象的には小粒なタイプの人(私たち自身を含めて)が多いのは、この世代の特徴かもしれません。おそらく10年もすれば、浮き足立つこと無く着実に大きな物語を語れるようになった人だけが、この中から生き残るのだと思います。

本文以上に読み応えがあるのは、書籍化に伴い追加された立川裕大氏、西村佳哲氏、山本雅也氏の三方と萩原修さんによる「現場とデザイン」、「働き方とデザイン」、「メディアとデザイン」と題する3つの対談です。むしろこの対談を膨らませた内容の書籍をぜひ読んでみたいと思いました。
表現行為を当時的立場と客観的立場の両方から様々な角度で見つめながら、同時にその社会的立脚点を創造してゆくことは、表現者自身が自覚と冷静さを持って担うべき重要な役割であると今更ながらに強く感じます。かく言う私たちはその辺の才能が欠如した単細胞でして、生き残るのはなかなか難しいような気がする今日この頃です。

デザインスタンス 新世代のクリエーターと仕事 1 (amazon.co.jp)

2007年11月02日 06:00 | trackbacks (0) | comments (2)

仕事してるんです : alternative・屋外サイン設置など

10/31。午後一番に自由が丘『alternative』へ。

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テーブル天板とチェアの交換が完了。木部の染色が木目を生かした薄いホワイトに変更された。ようやくイメージ通りの仕上がりに。

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客席全体の印象もぐっと引き締まった。いろいろあったが、キノシタ・西村さんには最後まで良心的なご対応をいただいたので良しとしよう。

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WCも完成。天井にステンレスの装飾パイプ。手洗台は黒い塊に白くて丸いボウル。

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上の写真左はWCのドアサイン。16時頃からは屋外サインの設置作業が始まり、20時頃に完了。写真右は2Fのエントランスサイン。傘立兼用。

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上の写真は1Fの専用階段サイン。配線モールを綺麗にカバーできるだけの予算が無かったのは残念だが、サインそのものは言うこと無しの仕上がり。今回は装飾パイプなどを含め、ややこしいステンレス造作が割合多かったが、金物屋さんの仕事は実に見事でスマートだった。サイン類のフォント製作とレイアウトは全てアラタメさん。

キッチンとサンルームの間のガラス窓にタペストリー加工調のフィルム貼り。エントランス脇の消防突破口上部にも間接照明の写り込み対策として同様のフィルム貼り。その他諸々の細かなフィルム貼りや塗装面のタッチアップなどは全てイカハタ・清原さんが直々に片付けて下さった。

レセプションカウンターとキッチンのコールドテーブルの入れ替えが完了。ビアサーバの収納部分に熱がこもるため、両開扉の片側を取り外し。後日、ここには客動線からの目隠し用のステンレス造作を取り付けることになった。

領収証用の店名スタンプを納品。予約席用のサインを組み立て。
オープンに向けて、私たちのお手伝いできることも残りわずか。

2007年11月01日 04:00 | trackbacks (0) | comments (0)
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